運転中に「危ない!」と思って慌ててブレーキを踏んでも、車はすぐには止まりません。とくに、雨の日や雪の日は止まるまでに時間がかかります。そこに密接に関わってくるのが、「制動距離」「空走距離」「停止距離」の3つです。教習所で習ったものの、記憶が曖昧という方もいることでしょう。
そこで、本記事では3つの関係性やそれぞれの距離の計算方法、雨の日に起こりやすいハイドロプレーニング現象について徹底解説。安全運転のためにもしっかり知識を身につけておきましょう。
- 目次
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1.制動距離、空走距離、停止距離の関係は?
「ブレーキを踏む」とひと言で言っても、車が止まるまでの間にはさまざまな段階があります。
- 「危ない!」と気づく障害物を認知
- 足をアクセルからブレーキに移動する
- ブレーキを踏む
- ブレーキが利き始める
- 車が停止する
こうした一連の動きの中で、制動距離、空走距離、停止距離の3つは、下図のように関わり合っています。それぞれどのように違うのか見てみましょう。
2.制動距離とは?
制動距離とは、4〜5のブレーキが利き始めてから車が停まるまでに走行する距離のことを指します。1〜3の危険を察知して、ブレーキが利き始める前までの間は、制動距離には含まれません。
ブレーキを操作してから車が停止するまでの時間を「制動時間」と呼びます。大分県警によると、時速60kmで一般道を走行する車の場合、制動時間は1.3秒となっています。
雨や雪の日は車の停止に時間がかかる
制動距離は、同じ車でもブレーキの操作方法によって変わってきます。また、路面の状態や車両重量、タイヤと路面の摩擦具合などによっても変わります。晴れの日よりも雨の日のほうが制動距離は長くなりやすく、車が停止するまでに時間がかかるため注意が必要です。雪道運転でも制動距離は伸びます。下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
3.空走距離とは?
次に、空走距離について解説します。空走距離とは、運転者が「危ない!」と障害物を認知してから、ブレーキを踏み、実際にブレーキが利き始めるまでに走行する距離のことを指します。
また、空走距離にかかる時間のことは「反応時間(空走時間)」と呼びます。反応時間の長さは人によって異なりますが、早くて0.6秒、一般的には1.5秒以内、平均0.75秒と考えられています。わき見運転や運転者の疲労などで反応時間が長くなるほど、空走距離も長くなります。
危険に気づいても車は進み続ける
空走距離は、走行スピードによっても変わってきます。大分県警が公開している実験データによると、1.5秒の間に進む距離は、時速40kmでは約16.7m、時速50kmでは約20.9m、時速60kmでは約25.1mとなっています。危険に気づいても、ブレーキが利き始めるまでの間に、車はかなりの距離を進んでいることがわかります。
4.停止距離とは?
3つめの停止距離とは、空走距離と制動距離を足した距離のことです。道路の状況や走行スピードなどによって距離は変わってきます。大分県警によると、「危ない!」と障害物を認知してから車が停止するまでは2.8秒〜3.0秒かかるそうです。このため、追突事故を避けるには、前方注視の徹底とブレーキを操作してから車が停止するまでの3秒分の車間距離をとることが大事だとされています。
一例として、乾燥したアスファルト舗装路での、速度ごとの3秒間に進む距離(安全な車間距離)を紹介しますので目安にしてください。
速度別 3に進む距離(安全な車間距離)
速度 | 3秒間に進む距離 (安全な車間距離) |
---|---|
10km/h | 8.34m |
20km/h | 16.68m |
30km/h | 24.99m |
40km/h | 33.33m |
50km/h | 41.67m |
60km/h | 50.01m |
70km/h | 58.32m |
80km/h | 66.66m |
90km/h | 75m |
100km/h | 83.34m |
※乾燥したアスファルト舗装路の摩擦係数を0.7、空走時間を0.75秒として計算
※表の各距離は使用車両のタイヤの摩耗状況や重量、路面状況、運転者の反応速度などにより変化します。
- 出典
- 佐賀県警察ウェブサイト
5.雨の日に注意が必要なハイドロプレーニング現象とは?
停止距離が伸びる原因の1つとして注意が必要なのが、雨の日などに起こりやすいハンドルやブレーキが利かなくなる「ハイドロプレーニング現象」です。どんなものなのか起こる原因や対処法を見てみましょう。
ハイドロプレーニング現象が起こる原因
ハイドロプレーニング現象とは、濡れた路面を高速で走行したときにタイヤと路面の間に水の膜ができ、浮いた状態になってハンドルやブレーキが利かなくなる現象です。
通常、路面に水が溜まっているときは、タイヤの溝から排水して路面をつかんで走行しています。しかし、高速になりすぎると排水が間に合わなくなり、タイヤが水の上を滑っている状態になってしまいます。このため、ハンドルやブレーキをコントロールできなくなるのです。
起きたときの対処法
ハイドロプレーニング現象が起きたときは、まずは焦らないことが大切です。ハンドルやブレーキをコントロールできない状態ですので、ハンドルを切らずに、ブレーキも踏まず、そのまま走行しながら減速して、現象が自然におさまるのを待ちましょう。焦ってハンドルを切って危険な方向へ走らせてしまわないように注意してください。
ハイドロプレーニング現象を予防するには?
水が溜まっている場所で起こりやすい現象ですので、なるべく雨の日や雨が降った後の濡れた路面の走行を避けることが1番の予防になります。雨の日などに走行する場合は、予防策として次のことに注意しましょう。
- タイヤの空気圧が不足しないように定期的に点検する
- 溝が摩耗しているタイヤを使用しない
- 古いタイヤを使用しない
6.制御距離と空走距離の計算方法
乾いた路面や濡れた路面など、状況によって制御距離や空走距離は変わってきます。車がどのくらいの距離を移動するのか目安を知っておくことが、交通事故防止につながります。そこで、ここではそれぞれの計算方法を解説します。
制御距離の計算式
制御距離の計算式は次のとおりです。
車の速度(時速〇km)の2乗÷(254×摩擦係数)=制御距離
摩擦係数は、乾燥したアスファルトなら0.7〜0.9、濡れたアスファルトなら0.45〜0.6が目安です。たとえば、時速50kmで乾燥したアスファルト(摩擦係数0.7)を走行する場合は次のようになります。
(50km×50km)÷(254×0.7)=14.06...
つまり、制御距離は約14mです。
空走距離の計算式
次に、空走距離の計算式は以下のとおりです。
反応時間(秒)×車の速度(m/秒)=空走距離
反応時間を平均の0.75秒として、時速50kmの場合の空走距離を計算してみましょう。
0.75×50000÷3600=10.41...
つまり、空走距離は約10.4mとなります。
停止距離は、制御距離+空走距離ですので、
14+10.4=24.4
停止距離は、24.4mとなります。
普通自動車の速度別停止距離の目安
車の速度によって停止距離は変わってきます。一例として、乾燥したアスファルト舗装路での、速度ごとの停止距離を紹介しますので目安にしてください。
速度別 停止距離一覧
速度 | 停止距離 |
---|---|
10km/h | 2.64m |
20km/h | 6.42m |
30km/h | 11.31m |
40km/h | 17.33m |
50km/h | 24.48m |
60km/h | 32.75m |
70km/h | 42.14m |
80km/h | 52.66m |
90km/h | 64.30m |
100km/h | 77.07m |
※乾燥したアスファルト舗装路の摩擦係数を0.7、空走時間を0.75秒として計算
※表の各距離は使用車両のタイヤの摩耗状況や重量、路面状況、運転者の反応速度などにより変化する
- 出典
- 佐賀県警察ウェブサイト
速度が速いほど十分な車間距離が必要
上記はあくまで条件が良いときの目安です。天候や運転者の疲労、わき見運転などで制動距離も空走距離も長くなります。運転時は前方を注意し、十分な車間距離を取るようにしましょう。
7.監修コメント
早く車を止めるために効果的なブレーキの操作方法は、搭載している機能によって異なります。ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)を搭載している場合は、ブレーキを強く踏み続けることが重要です。逆にABS非搭載車でブレーキを強く踏みすぎると、タイヤがロックして減速しづらくなる上、ハンドル操作も困難になります。最近の車はほとんどがABSを搭載していますが、心配な方は、エンジンスイッチをオンにして有無を確認しておくとよいでしょう。
制動距離は重量によっても変わってきます。乗車定員数や積載可能重量を厳守することはもちろん、乗員や荷物がいつもより多いときは特に気を付けて運転するようにしましょう。