近年、あおり運転などの社会問題化を背景に、運転中の悪質な交通ルール違反である「危険運転」の罰則強化(厳罰化)が進められています。特に、2026年7月からは改正自動車運転死傷処罰法が施行され、危険運転致死傷罪の対象が従来よりも拡大されたため、より一層の注意が必要です。
本記事では、そのような「危険運転」の定義といった基本的な知識のほか、今回の改正法で変更された危険運転に該当する行為(例)の種類や構成要件についてわかりやすく解説します。また、万が一危険運転致死傷罪や準危険運転致死傷罪に問われたときに注意すべきポイントや、危険な車に遭遇したときの対処法、ドライブレコーダーの効果的な使い方など紹介します。
- 目次
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1.危険運転とは
危険運転とは、酒や薬を摂取した状態での運転やあおり運転といった、人を死傷させる可能性の高い危険で悪質な運転のことです。危険運転の特徴のひとつが「故意性」であり、ドライバーが危険と知りながら行うという点で過失とは明確に区別されます。
危険運転によって人を死傷してしまったときには、極めて罰則の重い「危険運転致死傷罪」が適用されます。また、ほかの車の走行を妨害する「あおり運転」は人身事故に至らなくても道路交通法上の「妨害運転」の罪に問われるなど、極めて悪質で危険な運転行為は事故の有無に関わらず厳しく科される仕組みが整えられています。
危険運転致死傷罪とは
車による人身事故には、これまで長らく「業務上過失致死傷罪」という罪が適用されてきたものの、社会問題化するあおり運転など、一部の危険な運転に対して厳罰化を望む声が多く見られました。
そこで2013年に新たに成立した「自動車運転死傷処罰法」では、過失の域を超えた悪質で危険な運転による人身事故に対し、より罰則の重い危険運転致死傷罪が適用されるようになりました。
ちなみに、令和7年に公表された警察庁の資料によれば、危険運転致死傷罪の適用件数は令和3年以降増加を続けています。違反の内容別では、信号の殊更無視とアルコールの影響による危険運転が特に多い傾向にあり、今後もさらなる取締りの強化が予想されます。
2.【2026年】自動車運転死傷処罰法が改正。その背景と内容
2026年(令和8年)7月、「自動車運転死傷処罰法」が改正され、危険運転致死傷罪に関するルールが一部変更されることとなりました。
改正のきっかけとなった判例と社会の要請
このたび自動車運転死傷処罰法が改正された背景には、危険運転致死傷罪の成立が争点とされる中で司法の判断が議論を呼んだふたつの判例があります。
そのひとつが、2021年に大分県で発生した死亡事故をめぐる裁判です。この裁判では、事故発生時の走行速度が時速約194㎞と高速度だったために危険運転致死傷罪の成立が争われましたが、最終的には「走行中の状態に問題はなかった」として過失運転致死傷罪にとどまるとの判断(福岡高裁判決など)が下され、検察側がこれを不服として最高裁へ上告するなど、その司法判断は大きな議論を呼んでいます。
また、2016年に栃木県で発生した事故では、指定最高時速50㎞のカーブに対する時速91㎞~97㎞という進入速度が危険運転の根拠とされました。しかし、最高裁の判例等ではこの進入速度に対して「制御が困難とはいえない」といった判断が下され、こちらも危険運転致死傷罪の成立が否定される結果となっています。
これらの判例は判決の内容もさることながら、同法が定める危険運転の「基準のあいまいさ」という問題点も浮き彫りにし、社会に大きなインパクトを与えました。その結果、被害者遺族を中心とした署名活動なども行われ、今回の法改正へとつながることになりました。
主な変更点は数値基準導入と新しい類型の追加
今回施行された改正法の大きな特徴としては、危険運転と見なされる行為の基準がより厳格になり、危険運転致死傷罪の適用範囲が拡大されたことが挙げられます。
たとえば、「飲酒運転」と「高速度運転」にはそれぞれにアルコール量や走行速度の具体的な数値基準が導入され、基準に該当するケースを危険運転致死傷罪の対象とすることが明確化されました。
さらに危険運転の類型には、「ドリフト走行」「ウィリー走行」にあたる行為が新たに追加されました。これらの変更点の詳しい内容については、以下の記事で詳しく解説しています。
3. 危険運転に該当する9つの行為
危険運転にあたる行為は、自動車運転死傷処罰法の第2条によって以下のように定められています。
飲酒・薬物の影響下での運転(酩酊危険運転)
酒や薬物を摂取し、判断力が低下した状態で車を運転することは、重大な事故につながる極めて危険な行為です。なかでも飲酒運転に関しては、今回の法改正で数値基準が導入され、以下のいずれかの要件に該当する状態で人身事故を起こした場合は危険運転致死傷罪の対象とされることとなりました。
- 身体に血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上のアルコールを保有する状態
- 呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールを保有する状態(※アルコールの分解能力や体質には個人差がありますが、いずれも体内に多量のアルコールが残っている状態を示します)
- その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態
加えて、酩酊状態での運転は仮に人身事故を起こさなかった場合でも、その行為自体が飲酒運転や麻薬等運転、過労等運転といった法令違反として罰せられる可能性があります。
速度超過(高速度危険運転)
適切に制御できないほどの速度を出して走行することも、事故を誘発する危険運転の一種とされます。改正自動車運転死傷処罰法では、人身事故を起こした場合に危険運転致死傷罪が適用される高速度危険運転を以下のように定義しています。
- 最高速度が時速60㎞以下の道路で、最高速度を時速50㎞よりこえる運転
- 最高速度が時速60㎞を超える道路で、最高速度を時速60㎞よりこえる運転
一方、こちらの要件に満たない場合でも、道路ごとの指定速度(指定速度表示がない道路では法定速度)をこえたスピードで走行したときにはその時点で「スピード違反(速度超過)」として罰則や加点の対象となります。
運転技量不足(技能欠如危険運転)
運転者自身に十分な運転能力がない状態で車を運転することは、同乗者はもちろんのこと、周囲の車や歩行者にとっても大きなリスクとなります。ちなみに、運転能力の欠如にあたるかどうかは、事故の際の状況や運転者の免許の有無、運転経験などをもとに総合的に判断されます。
通行を妨害する目的で車や人へ異常に接近する行為
周囲の歩行者や車に対して異常なまでに接近したり、走行中の車の直前へ故意に割り込んだりといった行為を、重大な事故につながる速度で行うことはいずれも非常に危険です。こうしたほかの車や人の通行を妨害するいわゆる「あおり運転」も、その悪質性・危険性の高さから「妨害運転」として単独で厳しい罰則が設けられています。
走行車の前での意図的な急停止
重大な事故に発展しかねない速度で走行している車の前で、通行妨害を目的として車を「急停止」させることも危険運転に該当します。また、完全に車が停止していなかったとしても、近い形で危険を生じさせた場合は危険運転として罪に問われることになります。
高速自動車国道・自動車専用道路での急停止
多くの車がスピードを出して走行する高速自動車国道や自動車専用道路では、走行中に速度を落とすだけでも大きな事故につながりかねません。そのため、これらの道路の走行中に妨害目的で急激な停止や減速を行い、後方の車を停止・徐行させることは速度に関わらず危険運転と見なされます。
赤信号無視(信号無視危険運転)
危険運転には、赤信号を無視して危険な速度で走行することも含まれます。ただし、赤信号無視が危険運転と見なされるのはあくまで走行速度の危険性が認められた場合のみであり、単に信号を無視しただけでは危険運転としては扱われません。
通行禁止無視(通行禁止道路危険運転)
「車両通行止め」の標識がある道路や、歩行者・自転車専用道路など、通行が禁止されている道路を危険な速度で走ることは「通行禁止無視」という危険運転にあたります。ほかには、一方通行の道路や高速道路を逆走することも、禁止された通行を行っているため通行禁止無視に該当します。
ドリフト走行・ウィリー走行
こちらは自動車運転死傷処罰法の改正により新たに追加された類型であり、タイヤを滑らせたり、浮かせたりした状態のまま走行する行為を指します。モータースポーツなどでは一種のテクニックとされることもある行為ですが、公道で行った場合は危険運転と見なされるため注意が必要です。
4.危険運転の罰則
危険運転を行った運転者に対しては、その内容に応じた罰則が科されます。具体的な罰則は以下の表の通りです。
| 被害者が負傷した場合 | 被害者が死亡した場合 | |
|---|---|---|
|
危険運転致死傷罪 (自動車運転死傷処罰法第2条) |
15年以下の拘禁刑 (無免許の場合、6か月以上20年以下の有期拘禁刑) |
1年以上20年以下の有期拘禁刑 |
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準危険運転致死傷罪 (自動車運転死傷処罰法第3条) |
12年以下の拘禁刑 (無免許の場合、15年以下の拘禁刑) |
15年以下の拘禁刑 (無免許の場合、6か月以上20年以下の有期拘禁刑) |
ここからは、それぞれのケースについて詳しく解説していきます。
危険運転致死傷罪の罰則
正常な運転が「できない」状態で引き起こされた人身事故には、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第2条)が適用されます。
罰則の内容としては、被害者が死亡した場合は1年以上20年以下の拘禁刑、負傷した場合は15年以下の拘禁刑が科されます。また、運転者が無免許のケースでは、同法第6条によりさらに刑が重くなり、負傷の場合も6か月以上20年以下の有期拘禁刑となります。
準危険運転致死傷罪の罰則
準危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法第3条)とは、アルコールや薬物、特定の病気などの影響で、正常な運転ができない「おそれがある」状態で発生した人身事故に適用される罪です。こちらは同法第2条の基準に満たないものの、危険運転と同等に危険な行為を処罰する目的で設けられています。
準危険運転致死傷罪に問われた場合、致死罪であれば15年以下の拘禁刑、致傷罪であれば12年以下の拘禁刑が科されます。さらに無免許の場合、致死罪は6か月以上20年以下の有期拘禁刑、致傷罪は15年以下の拘禁刑へと刑が重くなります。
あおり運転(妨害運転)の罰則
2020年6月より施行された改正道路交通法では、あおり運転(妨害運転)に対して新たに罰則が創設されました。改正道路交通法のあおり運転の罰則は、交通の危険の「おそれがある」場合と、交通の危険を「実際に生じさせた」場合で分かれています。
交通の危険のおそれがある運転には、急ブレーキや急激な接近など、妨害を目的としたさまざまな行為が含まれます。違反した場合は違反点数25点の加算(欠格期間2年の免許取消し)と3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科され、前歴・累積点数があれば欠格期間が最大5年となります。
一方で、あおり運転によって高速道路上でほかの車を停車させてしまったり、直接的に事故を起こしてしまったりした場合は、著しい交通の危険を実際に生じさせたと見なされます。こちらのケースでは、違反点数35点の加算(欠格期間3年の免許取消し)と5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されるほか、前歴・累積点数がある場合には欠格期間は最大10年まで延長されます。
【用語解説:欠格期間とは?】
悪質な違反で免許取消しになった後、新たに免許を取り直すことができない期間のことです。あおり運転や危険運転致死傷罪のような極めて重い違反の場合、前歴や累積点数に応じてこの期間が最長で10年にわたって設定され、車を運転できない生活を長期間強いられることになります。
それぞれの罰則の位置付けは以下の表の通りです。
| 行政処分 | 刑事罰 | |
|---|---|---|
|
交通の危険のおそれがある場合 |
違反点数25点加算 (欠格期間2年の免許取消、前歴・累積点数があれば欠格期間最大5年) |
3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
|
交通の危険を実際に生じさせた場合 |
違反点数35点加算 (欠格期間3年の免許取消、前歴・累積点数があれば欠格期間最大10年) |
5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
そのほか、あおり運転に該当する行為の詳しい内容や、厳罰化の背景などについては以下の記事で詳しく解説しています。
5. 危険運転が被害者救済や示談交渉に与える影響
車で人身事故を起こしてしまったときには、重い刑事罰・行政処分が科せられるだけでなく、被害者や遺族に対する賠償責任も発生します。特に危険運転による事故の場合は、加害者側の責任(過失割合)が重いと判断されて慰謝料の額が大きくなりやすく、示談交渉も難航しやすい傾向にあります。
とはいえ、被害者との示談が成立していることは刑事裁判の量刑判断においてもプラスに働くため、事故後は弁護士の力を借りつつ被害者救済に最大限努めることが大切です。危険運転で事故を起こしたとき弁護士を頼ることが推奨される理由は、以下の記事でも詳しく解説しています。
6. 危険運転をされた際の対処法
悪質な危険運転をする車に遭遇したときは、以下のような方法で身を守りましょう。危険運転を受けた直後は動揺して適切な行動をとれない可能性も高いため、日頃から対処法の確認・準備を行っておくことが大切です。
安全な場所への避難
危険運転に遭遇したときは、まずは相手の車から距離を取ることを最優先に考えましょう。とはいえ、急激にスピードを上げて逃げるのは、かえって事故につながってしまう危険性も高く逆効果です。
より安全に接触を回避するためには、冷静な態度で相手に道を譲った後、タイミングを見て人目のある駐車場やサービスエリアなどに避難することをおすすめします。相手から強く迫られたとしても、決して外に出たり、窓を開けてコミュニケーションに応じたりしてはいけません。
相手の車や被害状況の撮影
あくまで身の安全が第一ではあるものの、もし余裕がある場合は、危険運転の様子や相手の車を撮影しておくことでその後の通報などに活用できます。なかでも、自動録画機能のあるドライブレコーダーなら、その場で焦って操作を行う必要がなく、危険運転への対処に専念することが可能です。
また、危険運転を撮影されることは相手にとっても不都合なため、ドライブレコーダーは車外から見える位置に設置しておくだけでも危険運転を抑止する効果が期待できます。もしドライブレコーダーを搭載していない場合には、同乗者にスマートフォンでの撮影を頼むのもよいでしょう。
警察への通報
危険運転車から十分な距離を取ることができたら、すみやかに警察へ通報します。危険運転の状況や相手の車の車種、車体の色、ナンバープレートの情報などをわかる範囲で伝えた後は、指定された場所で警察の到着やその後の対応を待ちましょう。
ちなみに、危険運転についての通報は通常の110番のほか、警察本部の相談窓口「#9110」でも受け付けています。こちらの窓口では、危険運転に該当するかどうか判断が難しい事案や、比較的緊急性の低い事案についても気軽に相談が可能です。
7. 監修コメント
高速道路では、追い越し車線を走り続ける車に対し、後続車が車間距離を詰める場面を見かけることがあります。追い越しを終えた後も追い越し車線を走り続ける行為は通行帯違反に問われる可能性がありますが、前方車に交通違反があるからといって、車間距離を極端に詰める行為などが許されるわけではありません。
妨害運転と判断されれば、刑事罰に加えて運転免許の取消し処分を受ける可能性もあります。違反している車を見つけても冷静さを保ち、十分な車間距離を確保しましょう。
