台風やゲリラ豪雨が頻発する近年の日本において、車の浸水・水没被害はドライバーにとってより身近なリスクとなっています。当記事では、そんな浸水・水没が車と乗員にもたらす影響や、車で水害に遭遇した際の対処法を詳しく解説します。
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1. 実は身近なリスク!車の浸水被害
昨今、地球温暖化にともなう気候変動などの影響により、日本でもゲリラ豪雨や台風による水害が増加傾向にあります。たとえば、国内での時間雨量50mmを超えるゲリラ豪雨(短時間強雨)の発生件数は、令和4年の時点で約40年前の約1.5倍にのぼるとのデータがあります。
また、全国の一級河川における年間最大流域平均雨量は将来的に現在の約1.1~1.3倍になるとの予測もあり、水害の発生確率は今後もさらに高まっていくことが予想されます。いまや水害は地域や季節に関わらず、誰もが日常的に遭遇する可能性のある災害なのです。
そんな水害のなかでも、車の中に水が浸入する、車体が水に沈むといった「車の浸水・水没」は特に身近な被害であり、対応を誤れば車だけでなく乗員の命も失われかねない重大なリスクのひとつです。そのため、ドライバーには万が一の際にも冷静に行動できるよう、正しい対処法を把握しておくことが求められています。
- 出典
- 河川事業概要2023
2. 車が浸水・水没するとどうなる?
では、車が浸水・水没するとどのような事態になるのでしょうか。車の浸水・水没による影響は、車そのものに対するリスクと、乗員に対するリスクの大きく二つに分けられます。
車の不具合・故障
フロア面を超える水位まで車が水に浸かると、エンジンやモーターといった駆動系部品に水が入ってしまい正常に走行できなくなります。浸水した状態で無理にエンジンをかけることは、車の故障にもつながるため避けた方がよいでしょう。
また、車の機能の多くは電気装置によって制御されており、その電気系統も浸水によって不具合をきたす場合があります。代表的なところでは、自動スライドドアやパワーウインドウなども浸水状態では作動しなくなる可能性があるため注意が必要です。
乗員に対する危険
車の浸水には、乗員が車内に閉じ込められて脱出できなくなるというリスクもあります。車のドアは周囲の水位が高くなると水圧によって内側からドアを開けることが困難となり、車の内外の水位の差が大きくなれば開けることはほぼ不可能になってしまいます。
さらに、海水による浸水の場合は車の電気系統がショートし、車内火災に発展する危険性があります。この現象は海水の「電気を通しやすい」という性質によるものであり、キースイッチを切っている状態でも発生する可能性があります。
3. 車が浸水・水没した際の対処法
浸水・水没の危険性がある場所での運転はなるべく避けることが望ましいですが、もし運転中に車が浸水・水没してしまった場合には以下のような手順で冷静に対処します。
浸水・水没の程度を確認する
車の浸水状況は運転席からではわかりにくく、判断を誤ると対処が困難になってしまいます。浸水が疑われる場合には、まずはすみやかに現状を確認することが大切です。
一般的に、水位がタイヤの半分から下までの場合には浸水による車への影響はほとんどないとされています。一方で、水位がタイヤ上部やマフラーの高さに到達している場合はエンジン内に水が入るなどの深刻な故障を引き起こす可能性があるため、すぐに車を停止して車内から脱出し、安全が確保できたらロードサービスなどにその後の対応を引き継ぎましょう。
すぐにエンジンをかけない
一度車が水に浸かってしまった後は、たとえ周囲の水位が下がってもすぐに運転を再開してはいけません。エンジンの内部などにまだ水が残っている可能性があるためです。
やむを得ず車をその場から移動させたい場合には、エンジンはかけず、ギアをニュートラルに入れて手で押して移動させるようにしましょう。
車内に閉じ込められてしまった場合には?
車が水没するとドアからの脱出が困難になるため焦ってしまいがちですが、基本的にすぐに沈むことはないので落ち着いて脱出することが大切です。もし窓が開くのであれば、シートの上で仰向けになり、背中側から窓の外に身体を出すとスムーズに脱出できます。
また、水深がドアの下端に及ぶと水圧で内側からドアを開けることが難しくなり、ドアの半分を超えれば内側からはほぼ開けられなくなってしまいます。しかし、車が水没してしまった場合には、車内に水が浸入して内外の水位が同じになれば内側からドアが開きやすくなります。
そのほか、カー用品店などで購入できる脱出用ハンマーを使用すれば、窓を叩き割って脱出することも可能です。ただし、フロントガラスは強固な合わせガラスが使用されている場合が多く、ドアガラスも車種によっては割れにくい構造の場合があるため注意が必要です。
4. 道路が冠水している場合の注意点
雨水などが溜まって冠水している道路は、見た目だけでは水深を判断することが難しく、深さを見誤ると道の途中で浸水して立往生してしまう可能性があり危険です。リスクを回避するためにも、以下のような点に気を配りましょう。
冠水しやすい道路を知る
冠水した道路を通らないためには、地形的な特徴などを踏まえ、冠水しやすい場所を事前に把握しておくことが重要です。特に、他の道路や鉄道の下をくぐり抜ける道路(アンダーパス)は水が溜まりやすく冠水のリスクが高いため、雨の日には通行を避けた方がよいでしょう。
また、水害の発生確率が高いエリアはハザードマップや交通情報などからも確認できます。「どのように迂回すれば冠水しやすい道路を避けられるか」など、日頃からさまざまな事態を想定して情報を収集しておくことも有効な対策といえます。
【関連リンク】 ハザードマップポータルサイト 身のまわりの災害リスクを調べる
慎重に確認しながら通行する
もしやむを得ず冠水した道路を通らなくてはならない場合は、他の車の走行状況や水深をよく確認し、確実に通行できると判断したうえで通行します。
ただし、跳ねた水がエンジンに入ったり、思わぬ事故に発展したりする可能性があるため、スピードを出して勢いよく通り抜けようとするのは危険です。あくまで徐行し、慎重に通行するようにしましょう。
5. 早めの対策と冷静な判断で、水害から身を守ろう!
車の浸水・水没は時に人命が脅かされることもある大きなリスクですが、正しい知識をもとに的確な対策を行えば、その被害を回避・軽減することは可能です。日頃から情報収集や脱出用グッズの用意といった準備を重ね、危険な場面に遭遇した際も落ち着いて対処することを心がけましょう。
6. 監修コメント
車が水没したときのために備えておきたい脱出用ハンマーには、最も普及している「金槌タイプ」の他に「ピックタイプ」や「ポンチタイプ」もあります。
金槌タイプやピックタイプはシンプルな形状なので、用途を知っていれば誰でも使い方が分かるでしょう。一方のポンチタイプは弱い力でもガラスを粉砕できることが利点ですが、使い方や押し当てるポイントにコツが要ります。いざというときのために動画などで使い方を確認しておくのはもちろん、説明書も一緒に保管しておくことをおすすめします。
その保管場所にも注意が必要です。ドライバーがすぐに手にできるように、必ず運転席の近くに備えておきましょう。