近年日本でも導入の機運が高まりつつある「走行距離課税」ですが、その実現にはいくつかのハードルも存在しています。当記事ではそんな走行距離課税の導入が議論される背景や、すでに導入している国の実例、仮に日本で導入された場合に起こりうることなどを解説します。
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1. 走行距離課税とは?
走行距離課税とは、自動車の「走行距離」を基準として、その長さに応じた額の税金を課す制度のことです。具体的な課税方式は制度によってさまざまですが、一般的に課税額は走行距離が長いほど高くなり、逆に短いほど低くなります。
現在、日本では走行距離課税は導入されておらず、2026年2月時点では具体的な導入の予定はありません。とはいえ、導入をめぐる議論は2018年頃から存在しており、特に昨今はガソリン税の暫定税率廃止決定などの影響を受け、新たな財源として導入を検討する動きが活発化しています。
走行距離課税を導入している国の実例
海外の一部の国では、走行距離課税はすでに導入されています。主な事例は以下のとおりです。
- アメリカ
現在はオレゴン州をはじめとした一部の州で実験的に導入されています。ガソリン税と併用し、走行距離による課税額からガソリン税分を差し引くという公平性の高い仕組みが特徴です。 - ニュージーランド
大型車両やガソリン税のかからないディーゼル車、電気自動車、ハイブリッド車が対象です。課税は1,000km単位で行われ、車の種類や重量も課税額に反映されます。 - ドイツ
3.5トン以上の輸送トラックのみが対象の「重量貨物車課金(LKW-Maut)」という制度として導入されています。走行距離はGPS搭載の機器で測定され、課税額は走行距離や排出ガス等級なども考慮して算出しています。
上記のほか、過去にはフランスでも大型トラックを対象とした走行距離課税の導入が検討されましたが、輸送業界からの強い反発により廃案となっています。
2. 導入が検討される背景
昨今、日本において走行距離課税の導入が議論されている背景には以下のような要因があります。
既存の自動車関連税の減収
日本では現在、自動車のオーナーに対して「ガソリン税」や「自動車税(種別割)」といった税金が課され、その税収が一般財源として財政を支えています。
しかし、こうした既存の自動車関連税は近年、燃費技術の向上や電気自動車の急速な普及、若者の車離れによる自動車台数の減少などにより減収を続けています。
なかでも、ガソリン税は暫定税率の廃止決定により今後さらなる収入減が予想されており、代わりとなる財源の確保が大きな課題となっています。
税負担の公平性担保
現在の税制では、電気のみで走行する電気自動車(EV)や電気とガソリンを併用するハイブリッド車(HV)といった、いわゆる「エコカー」は非常に優遇された立場にあります。
というのも、これらの車はガソリンの使用量が少ない、あるいは一切使用しないことからガソリン税の負担が小さく、排気量に基づく自動車税(種別割)の額も税負担が小さくなりやすい傾向にあります。
車の動力や排気量に関わらず「走った分だけ」負担が生じる走行距離課税には、こうした不公平な状況を解消し、国民にとってより納得感のある税制を実現するという役割も期待されています。
環境負荷への配慮
走行距離課税の導入には、自動車の使用そのものを抑制し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出削減に効果を発揮するという見方もあります。
また、マイカーの使用が抑制された結果、公共交通機関やライドシェアの利用が促進されることも、持続可能な交通社会の実現、ひいては環境負荷の低減につながると考えられています。
3. もし走行距離課税が導入されたら?
先述のとおり、現時点では日本で走行距離課税の導入の予定はありません。しかし、今後日本で走行距離課税が導入された場合には、以下のような制度になることが予想されています。
走行距離課税の対象となる車両
海外ではトラックなどの大型車両のみを対象に導入している国も多い走行距離課税ですが、日本で導入された場合には一般車両も課税対象になるという見方が強いです。
なかでも、ガソリンの使用量や排気量が少なく、現在の税制で優遇されている電気自動車やハイブリッド車は課税対象になる可能性が高いといえるでしょう。
一方で、走行距離課税導入後もガソリン税が存続する場合には、二重課税を避けるためにガソリン車に対して何らかの減免措置が講じられる可能性もあります。
走行距離の測定方法
課税額の基準となる走行距離の測定方法としては、車に内蔵されている走行距離計「オドメーター」を参照する方法と、GPSを利用して走行距離を算出する方法の二種類が主に検討されています。
ただし、メーターの付け替えといった不正・改ざんのリスクがあることから、オドメーターを利用する場合にはほかの計測方法と併用される可能性が高いです。
課税額が少ない人・得をする人
走行距離課税は走行した距離の分だけ税金が課される制度のため、仮に導入されても「車に乗る機会が少ない」「近場の移動にしか使わない」といったオーナーの負担は小さいでしょう。
そのほか、走行距離課税の導入時には多重課税を避けるため、ガソリン税の仕組みが改正されるか、排気量に応じた現行の自動車税(種別割)の見直しや再編が行われる可能性もあります。
4. 走行距離課税が抱える課題
さまざまな要因や利点から導入が検討されている走行距離課税ですが、一方では以下のような課題も指摘されています。
輸送費・交通インフラ利用料の高騰
課税方式にもよりますが、走行距離課税では自家用車の使用だけでなく、トラックによる物流事業やバス・レンタカーといった交通サービスなども課税の対象となります。
これらの納税義務はあくまで事業者にあるものの、増大した運行コストは物価やサービスの利用料に転嫁され、実態としては利用者が負担することになる可能性が高いです。このように、走行距離課税の導入はマイカーを持たない人々の生活にも大きな影響を与えることが予想されます。
地方在住者の負担増加
生活における自動車の必要性には、土地によって大きな差があります。たとえば、交通網の発達した大都市圏であれば、ほとんど車を使用せずとも日常生活を送れる一方、なかには公共交通機関が存在せず「車がなければ生活ができない」といった地域も存在します。
こうした地域差に課税額が左右される走行距離課税には、一部の地方在住者に対して不公平に重い負担を強いる側面があることも指摘されています。
エコカーの普及がもたらす悪影響
電気自動車やハイブリッド車といった環境性能の高いエコカーは、日本ではこれまで税制の優遇による「維持費の安さ」を大きな強みとして普及してきました。
その利点を打ち消すことになる走行距離課税の導入には、エコカーの普及を遅らせる恐れがあり、環境負荷の低減という観点ではむしろ逆効果になるという見解もあります。
プライバシーの侵害
走行距離課税において測定される走行距離は個人情報のひとつになり得るため、その収集や管理には厳格なルール・体制づくりが必要となります。
特に、GPSなどを用いた測定では結果的に車の使用者の移動履歴も収集されるため、データが不正に利用された場合のリスクは大きく、国家による行動の監視として危惧する声も上がっています。
5. 走行距離課税のこれから
ここまで紹介してきたとおり、日本における走行距離課税の導入には依然として多くのハードルが存在しており、すぐに実現する見通しは低いです。とはいえ、走行距離課税には国や納税者にとって一定のメリットがあるのも事実であり、導入に向けた機運は今後も高まっていく可能性があります。
実際に走行距離課税が導入された場合には、ドライバーに対してはもちろんのこと、社会にも大きな影響を与えることが予想されます。そのため、検討にあたっては慎重な議論が必要であり、国民はその議論の行方をしっかりと注視することが大切です。
6. 監修コメント
近年、自動車の電動化の進展により、燃料課税の減収が見込まれています。議論が進んでいる走行距離課税は、その分を補完する新たな道路財源の意味合いが強いとされています。さらに自動車取得時に課される自動車税(環境性能割)は2026年3月31日をもって廃止されることが決定しており、自動車関連税制は大きな転換期を迎えています。
エコカーに対する優遇措置や自動車税(種別割)を含む自動車に関わる税体系が今後どのように再設計されていくのか、複合的に注視していく必要があるでしょう。
