自動車保険

人身傷害保険の保険金額はいくらに設定する?補償内容や支払い例などとあわせて解説

更新

2023/09/13

公開

2023/09/13

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人身傷害保険は、自動車保険(任意保険)に加入することで選べる補償の1つです。自動車事故が発生したとき、ドライバーや同乗者のケガの治療費をはじめ、後遺障害による逸失利益、事故による精神的損害、働けない間の休業損害などを補償する保険で、保険金額を上限に、約款に基づいて損害額の実費が支払われます。

人身傷害保険に加入するときは、支払われる保険金の上限となる保険金額を設定する必要があります。しかし保険金額をいくらに設定するかは、多くの方が悩むポイントです。

そこで本記事では、人身傷害保険の概要と保険金額を設定するときの考え方や加入するメリット、注意点について解説します。実際の支払事例も紹介するので参考にしてください。

目次

    1. 人身傷害保険とは?

    人身傷害保険は、契約車の事故で乗車中の方(被保険者や同乗者)が負ったケガの治療費や後遺障害による逸失利益、精神的損害、休業損害などに対して、保険加入時に設定した保険金額を上限に、約款に基づき損害の実費が支払われる保険です。

    被保険者には契約車を主に運転するドライバーだけではなく、配偶者や同居の親族なども含まれます(被保険者を限定した場合はその範囲内に含まれる方のみが補償対象)。

    人身傷害保険で受け取れる保険金は、単独事故か相手方のいる事故かどうかによらず、損害額が決まり次第支払われます。支払われる保険金額に過失割合は影響しないため、示談交渉の結果を待たず保険金を受け取れることが特徴です。

    人身傷害保険が必要とされる理由

    もしも事故の相手方が任意保険に加入していない場合には、事故の相手が加入している強制保険「自賠責保険」から補償を受けられます。

    自賠責保険は被害者の救済を目的としている保険です。ただし「傷害による損害」「後遺障害による損害」「死亡による損害」については支払い限度額が設けられており、傷害(ケガ)による損害の精神的・肉体的な苦痛に対する慰謝料は、日額4,300円(入通院の場合)となっています。支給日数は、ケガの状態や実際の治療日数などを考慮して算出されます。

    しかし傷害による損害に支払われる保険金は、治療費や休業損害なども含めて被害者1名につき120万円を上限としており、決して十分とはいえません。

    このような事情を踏まえ、ご自身や同乗者の損害を補償する人身傷害保険に加入していると、保険金額を上限に損害額の全額が支払われるため、相手方の賠償金や自賠責保険だけでは不足する補償を補てんできます。人身傷害保険に加入していない場合、補償額は交通事故の相手方の過失割合によって変わります。

    また、人身傷害保険の補償は、相手方がおらず原則として全額自己負担となる単独事故も補償の対象です。単独事故は自賠責保険も対象外のため、人身傷害保険の保険金はいざというときの大きな支えとなります。

    人身傷害保険の種類

    人身傷害保険は、多くの保険会社で「車内・車外ともに補償」「車内のみ補償」の2つのタイプから選べます。それぞれのタイプの違いは、下表のとおりです。

    補償タイプ
    車内・車外ともに補償 車内のみ補償
    契約車に搭乗中の事故
    搭乗者全員が補償対象

    搭乗者全員が補償対象
    契約車以外の自動車(※2)に搭乗中の事故
    主に運転するドライバーとその家族(※1)が補償対象
    ×
    (※3)
    歩行中などの自動車事故
    主に運転するドライバーとその家族(※1)が補償対象
    ×

    ※1「家族」とは、①主に運転するドライバーの配偶者②主に運転するドライバーまたはその配偶者の同居の親族③主に運転するドライバーまたはその配偶者の別居の未婚の子を指します。

    ※2契約車以外の自動車とは、タクシーやバス、友人の車など、主に運転するドライバーやその家族が所有または主に使用する自動車は含まれません。

    ※3主に運転するドライバーとその家族などが契約車以外の自動車(自家用8車種)を自ら運転中の事故は、「他車運転特約」により補償されます。

    「車内・車外ともに補償」タイプは、契約車に搭乗中の事故に加え、契約車以外での事故、歩行中の自動車事故なども補償されます。ただし、契約車以外の自動車事故による補償対象は、主に運転するドライバーとその家族のみです。

    「車内のみ補償」タイプは、契約車に搭乗中の事故のみを補償します。補償対象はご自身のほか、家族や友人なども含めた搭乗者全員です。しかし、契約車に乗っているときに限定されるため、契約車以外の事故や歩行中の自動車事故などは補償されません。

    家族で複数台の車を所有している場合、2台以上の車で「車内・車外ともに補償」を選択すると、車外の補償が重複してしまいます。この場合、2台目以降は「車内のみ補償」にすれば補償の重複を回避できます。

    2. 人身傷害保険のメリット

    人身傷害保険は、自動車事故によるご自身や家族などの死亡やケガの損害を補償し、経済的なリスクに備えられる点がメリットです。そのほかにも、次のようなメリットがあります。

    • 過失割合に関係なく実際の損害額が補償される
    • 示談交渉が長引いてもすぐに保険金を受け取れる
    • 重い後遺障害などに対しては保険金の支払限度額が2倍になる
    • 逸失利益や精神的損害も補償される

    それぞれ詳しくみていきましょう。

    過失割合に関係なく実際の損害額が補償される

    人身傷害保険は、過失の有無や過失割合に関係なく、相手方のいる事故でも契約した保険金額を上限に保険金を受け取れます。例えば、保険会社が算出した損害額が3,000万円であれば、過失割合に関係なく3,000万円(※)が補償されます。

    保険金額が3,000万円未満の場合はその金額

    ご自身の過失割合が高くても十分な補償を受けられるのが、人身傷害保険の特徴の1つです。ご自身に責任のある損害(過失分)は原則として自己負担ですが、人身傷害保険の場合は、保険金額を上限に実際の損害額を受け取れます。

    示談交渉が長引いてもすぐに保険金を受け取れる

    相手方のいる事故では、通常、お互いの過失割合を決めるために示談交渉が行われます。示談交渉は保険会社や当事者同士などの調整が難航して、合意に至るまで長引くケースも珍しくありません。

    人身傷害保険に未加入の場合、任意保険の保険金の支払いは示談交渉後になりますが、人身傷害保険に加入していれば示談交渉成立前に保険金を受け取れます。保険金は保険会社による損害額算定の終わるタイミングに支払われ、相手方から賠償金の支払いを待たず、治療費などに充てられます。

    重い後遺障害などに対しては保険金の支払限度額が2倍になる

    所定の後遺障害を負い、かつ要介護と認められる場合には、人身傷害保険の保険金額の2倍を限度に保険金が支払われます(保険金額の設定が無制限の場合は無制限のままです)。これは、人身傷害保険の倍額条項とも呼ばれる規定によるものです。

    重い後遺障害を被った場合には、長期にわたって医療や介護にお金がかかるケースも多く、死亡時より経済的な負担が大きくなる可能性があります。倍額条項はこのようなケースに対応した規定であり、心強い補償です。

    逸失利益や精神的損害も補償される

    人身傷害保険の特徴として、逸失利益や精神的損害に対する補償(慰謝料)があります。

    逸失利益とは、事故にあわなければ将来得られたと予測される収入、あるいは死亡や後遺障害などによって減少した収入のことをいいます。精神的損害とは、事故によるケガや通院などで、被害者が精神的に受けた苦痛に対する慰謝料のことです。

    ケガによる治療費だけではなく、逸失利益や精神的損害が補償される点は人身傷害保険の大きなメリットといえます。

    3. 人身傷害保険はいくらに設定する?

    一般的に、人身傷害保険の保険金額は3,000万円から無制限まで設定できます。

    保険金額をいくらに設定するかは迷いやすいポイントですが、主に運転するドライバーの年齢や収入、家族構成などから考えるのがおすすめです。

    生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2021年12月発行)に、世帯主に万が一の事態が起こったときに必要と考えられる、経済的備えに関する調査結果が掲載されています(※)。家族構成の違いから保険金額を考えるときの参考になるでしょう。

    家族構成 金額
    全体の平均 5,691.3万円
    夫婦のみの世帯(世帯主40歳未満) 7,082.3万円
    夫婦のみの世帯(世帯主40歳以上) 4,574.0万円
    夫婦と末子が乳幼児の世帯 7,947.1万円
    夫婦と末子が小中学生の世帯 7,173.7万円
    夫婦と末子が高校生以上の世帯 6,477.7万円
    夫婦と独立した子どもの世帯 5,222.9万円
    母子家庭あるいは父子家庭の世帯 4,162.5万円

    世帯主に万一のことがあった場合の経済的備えに必要と考える資金額(総額)

    (※)出典
    生命保険文化センター「2021(令和3)年度「生命保険に関する全国実態調査」(2021年12月発行)」

    いざというときの備えとして保険金額は多いに越したことはありませんが、保険金額を大きくすれば保険料も高くなります。

    また、人身傷害保険の保険金額は1名ごとの設定です。契約車に搭乗していた一人ひとりに対して損害額を算出し、設定した保険金額を限度に支払われます。生命保険に加入している場合は、そちらからも保険金が支払われる可能性があります。

    一家の大黒柱が生命保険(死亡保険)に加入する場合、死亡したり高度障害状態となったりした場合に家族が困らないように保険金額を設定するケースが一般的です。生命保険の保険金支払事由には自動車事故による死亡も含まれるため、生命保険だけで必要な保障を確保できている場合は、人身傷害保険の保険金額を低め(3,000万円程度)に設定しても良いでしょう。

    【年齢別】死亡・重度の後遺障害に該当した場合の平均的な損害額の目安

    契約車の事故で、乗車中の方が死亡したり後遺症が残ったりした場合の損害額は、その方の年齢によっても異なります。以下の「年齢別の平均的な損害額の目安」を参考に、ご自身の年齢や加入している生命保険の保険金額を考慮して保険金額を設定しても良いでしょう。

    年齢別の平均的な損害額の目安
    年齢 扶養家族の有無 死亡した場合 重度後遺障害に該当する場合
    25歳 あり 6,500万円 1億5,000万円
    なし 5,500万円 1億4,000万円
    30歳 あり 7,500万円 1億7,000万円
    なし 6,000万円 1億6,000万円
    35歳 あり 8,000万円 1億9,000万円
    なし 6,500万円 1億8,000万円
    40歳 あり 8,000万円 1億9,000万円
    なし 6,500万円 1億8,000万円
    45歳 あり 7,500万円 1億8,000万円
    なし 6,000万円 1億7,000万円
    50歳 あり 7,000万円 1億7,000万円
    なし 5,500万円 1億6,000万円
    55歳 あり 6,500万円 1億5,000万円
    なし 5,000万円 1億4,000万円
    60歳 あり 5,500万円 1億2,000万円
    なし 4,500万円 1億1,000万円
    65歳 あり 3,500万円 9,000万円
    なし 3,000万円 8,000万円

    4. 人身傷害保険の保険金の支払い例

    人身傷害保険に加入すると保険金はどのように支払われるか、具体的な支払い事例をもとにみていきましょう。今回は損害額5,000万円の事故が発生したケースで、人身傷害保険に加入していた場合と加入していなかった場合を比較します。

    先述のとおり、人身傷害保険に加入していない場合、補償額は交通事故の相手方の過失割合によって変わります。例えば、相手方とご自身の過失割合が6:4の場合、損害額5,000万円の6割にあたる3,000万円が賠償金として支払われます。ご自身に責任のある過失分2,000万円は自己負担(補償なし)です。

    人身傷害保険に加入している場合は、保険金額を上限に損害額の全額が支払われます。相手方のある交通事故であっても、過失割合は影響しません。今回のケースでは、人身傷害保険の保険金額が5,000万円以上であれば5,000万円、保険金額が5,000万円未満であればその金額の保険金が支払われます。

    なお、自賠責保険の保険金や相手方からの賠償金、労働者災害補償制度からの給付などを受け取っているときは、損害額からそれを差し引いた金額の保険金が人身傷害保険から支払われます。

    5. 人身傷害保険はご自身に必要な金額で設定しましょう

    人身傷害保険は、ケガの治療費や休業補償など、乗車中の方に生じた自動車事故による損害を補償する保険です。相手方のある事故でも、過失割合に関係なく保険金額を上限に実際の損害額が補償されます。示談交渉前でも保険金を受け取れるため、いざというときにも安心です。

    人身傷害保険の保険金額は、年齢や収入、家族構成、加入している生命保険の保険金額などを考慮して、ご自身にとって必要な金額を設定しましょう。

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    竹国 弘城
    監修
    竹国 弘城(たけくに ひろき)

    証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自分のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうためのサポートを行う。
    【保有資格】1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP

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