2020年の東京オリンピックの競技に決まり、初心者から始める方も増えてきたというサーフィン。JPSAグランドチャンピオン3連覇中のプロサーファー・加藤嵐さんのインタビュー後編では、プロサーファーとしての生活や考え方、自然を相手にするアクションスポーツだからこその苦悩、今後の目標などをたっぷり聞いています。誰でも楽しめるサーフィンの魅力を聞いた前編とは一転、加藤さんの競技者としての想いと覚悟を感じることができるお話です!
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サーフィンで重要なのは、「自分を信じる力」
― 海外遠征も多く、シーズンオフはないとのことですが、加藤さんは普段どんな生活を送られているのですか?
朝6時に起きてフィジカル中心のトレーニングを1時間半。その後コーチのもとで練習して、午後は自主練をして、21時や22時には寝るという生活です。なんだか小学生みたいな生活ですよね(笑)。サーフィンは、日が出ている時しかできないので、常にそこに合わせて行動します。
試合でも、"波"という自然が作り出すタイミングに合わせていかないといけません。サーフィンでは波を待つときの位置取りも重要です。自分が待っているポイントにいつも波が来るとは限らないですし、波が来なければ競技の点数にもつながりません。
だから同じポイントに固執していたり、いい波が来なかったからといって気持ちを引きずったりしていてはダメ。正解がわからない中でも、「次はいい波が来る!」と常に考えて、自分を信じて待つ。自分が「次の波は右に来る」と思っても、他の人が3人左に行ったりして、心が揺さぶられたりすることもありますが、そこは自分を信じる力が必要です。
― 普段の練習は、どこの海で行うことが多いのでしょうか?
ホームは千葉ですが、必ずこの場所と決めているわけではありません。たとえば四国でいい波が来そうという情報をキャッチしたら、すぐに車を走らせて四国まで行って、サーフィンをしながら北上することもあります。ただ待っていてもいい波は来ないので、いい波があるところに自分で行きます。
でも、天気予報を見て、「この日は波が来そう!」と思って四国まで行っても、波が全然なかったことも何度もありますし(笑)、そこは自然が相手なので仕方ないところです。
― かなりフレキシブルに練習場所を選んでいるのですね。
そうですね。波の情報が載っているウェブサイトを見て、たとえば「愛知がいいな」と思ったらすぐ移動します。もともとひとつの所にじっとしているのが苦手な性格なので、移動したり運転したりすることは多いですし、むしろそうしているほうが好きです。
「怖い!」けれど、「自分に負けたくない!」
― サーフィンは大波など、危険な場面も多くあると思いますが、今までに大きなケガをされたことは?
何回もあります。頭を打ったりとか、足の靭帯を伸ばしたりとか......。特に海外の海だと岩に当たることが多いので、切り傷がすごいですね。
以前、ハワイに行った時に、大きな波に連続で飲まれてしまって、岩と岩の間の、かなり深くにまで持っていかれたことがありました。1回の波だけだったら、パニックにならない限り数秒で出てこられるんですが、そのときは顔が水面から出る間もなく次の波が来てしまって......。それが今までで一番怖かったことですね。
― 自然の力を借りるスポーツであるがゆえに、危険な体験もたくさんされているのですね。
自然の力に対する恐怖を乗り越えることが、一番大変で一番大切ですね。それは野球やサッカーといった他のスポーツにはあまりない恐怖感なのかなと思います。
「怖い」という感情を乗り越えてこそ、自分のサーフィンができるのです。
― 自分に負けることなく「怖さ」を乗り越えることが、サーフィンにおいて大切なことなのですね。加藤さんは、自分に負けてしまった経験はありますか?
何回もあります。この波は乗るのが難しい、失敗しそうだと感じている時は、特に負けそうになりますね。勇気を出してこぎ始めても、波に乗れるか不安になり、ボードの上に立つのをやめてしまった、ということも何度もあります。いつ、どこで、どの波に乗るのか、全て自分で選択するのがサーフィンなので、自分の恐怖心を乗り越えられるかという戦いは常にありますね。でも、1本乗らないとずっと怖いままなので、仮に大きい波にひるんで乗れなかったとしても、次に来た波には絶対に乗るようにしています。
あとは、沖に行って最初に来た大きい波にすぐ乗りに行って、あえて巻かれる(失敗する)ようにするとか。1回巻かれてしまえば自然と恐怖心はなくなるので、いろいろと工夫しています。サーフィンは、いい波がどこに来るかも勝つために大切なポイントですし、自然が相手なので常にスキルがある人が必ず勝つわけではありません。また、ジャッジによる採点競技なので、会場一帯を自分のものにできれば、ギリギリで技が決まったかどうか......というときに点数が出やすくなることもあり、そこに持っていくような作戦も必要です。
― サーフィン競技で勝つために必要なのは、テクニカルな部分だけではないのですね。
僕の感覚では、テクニカル要素よりも、乗った波の大きさの方が採点に響きます。いい演技をしても波が小さければ評価にはつながらず、大きい波に乗った人の方が点数は出るので、いい波に乗ることがまず大事。ですが、いい波がいつどこに来るのかは、なかなか読み切れませんし、運もあります。実力だけではカバーできない部分も大きいです。
最もレベルの高いツアー「WCT」を目指し、オリンピックへ
― 幼少期から続けてきたサーフィンで形成された考え方は、やはりご自身の生き方につながっているのでしょうか。
つながっていると思います。サーフィンは自分を信じることが大事なので、そのせいか自分主体の考え方なところがあると思います。(笑)
例えば、自分の興味があるものにはすぐに飛びつくタイプですね。あと、サーフィンは天気や波の状況次第で予定が変わることが日常茶飯事なので、予定は未定といいますか、時間に寛容で、臨機応変に生活していることが多いです。それは、世界のサーファーに共通するところだと思います。
― ご自身の今後の目標やビジョンはどのようなものでしょうか。
サーフィン界で一番レベルの高いWCT(World Championship Tour)という大会があります。僕は今、そこに出場するためのWQS(World Qualifying Series)というシリーズを戦っています。WQSランキングの年間トップ10に入れば、来年WCTに昇格できるので、そこが当面の目標です。そしてその先に、東京オリンピックがあると思っています。
― ありがとうございました。今後のご活躍、楽しみにしています!
編集後記
プロサーファー・加藤嵐さんにお話を聞いて知ったのは、サーフィンは、波に乗ることそのものの魅力はもちろん、海に入る気持ちよさや、夕日の景色など、自然を丸ごと感じられるアクティビティだということ。そのすばらしさを感じに、サーフィンに行きたくなりました。
また、プロとしての強い意思やこだわりも実感。今後の大会や東京オリンピックが楽しみです。編集部も応援しています!
- 加藤 嵐(かとう・あらし)
- 1993年7月18日生まれ。父親の影響で幼少期からサーフィンを始め、15歳のときにボーイズ(13〜16歳)の全日本チャンピオンを獲得。同じく15歳でプロ資格を獲得し、プロに転向。数々の大会で着実に実績を重ね、2016年〜18年は、国内大会全試合の総合成績で争われる『JPSA(日本プロサーフィン連盟)グランドチャンピオン』を3年連続で獲得するという快挙を成し遂げた。2019年は、世界各国の選手が参戦するWQS(World Qualifying Series)に参戦、各国で開催される大会に出場している。2020年東京オリンピックの正式種目に決定したサーフィン競技ショートボード種目において、活躍が期待される選手の一人。 加藤嵐さんのInstagramアカウントはこちら。