警察庁によると自動車運転免許の保有者数は2021年には前年よりも約9万4000人減少しています。一方で、65歳以上の高齢者の免許保有者数は約20万人増加。死亡事故件数も75歳未満では人口10万人あたり2.6件なのに対して、75歳以上は5.7件と倍以上発生しています。
事故原因については、75歳未満のドライバーによる死亡事故は「安全不確認」が原因の約3割を占めており、もっとも多くなっています。対して75歳以上の場合は、ハンドル操作やブレーキの踏み間違いといった「操作不適」が死亡事故原因の1位になっています。
加齢とともに進む運動機能や認知機能の低下は避けられないもの。それらを踏まえて、高齢者の運転ではどんなことに気をつければ良いのか、安全対策を徹底解説します。
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1.運転免許の更新に必要な高齢者講習とは?
高齢者が運転免許証を更新するときには、年齢や違反歴に応じて受けなければならない講習や検査があります。どんなものがあるのか見てみましょう。
70歳以上の方は高齢者講習が必須
運転免許証の更新期間満了日の年齢が70歳以上の方は、免許証を更新する際に「高齢者講習」の受講が義務づけられています。
免許の種類などによって講習内容は異なりますが、たとえば、普通自動車免許の更新の場合は、「座学」「運転適性検査」「実車指導」があります。所要時間は2時間ほどで、交通ルールや安全運転に関する知識などの確認、静止視力や動体視力などの検査、右左折、一時停止といった課題に合わせた実際の運転を行います。
75歳以上の方は認知機能検査も必須
75歳以上の方は、高齢者講習の他に「認知機能検査」の受検が必要です。認知機能検査とは、記憶力や判断力を測定する検査で、認知症のおそれがあるかどうかを調べるものです。検査の内容は2種類で、イラストを見て記憶する「手がかり再生」と、「今年は何年ですか?」などの質問に回答する「時間の見当識」があります。
検査後の採点結果で、認知症のおそれがあるかどうかの判定がされます。認知症のおそれがあると判定されたときは、専門医などの診断を受けることになります。その結果、認知症と診断された場合は、免許証取り消しや停止になることもあります。
高齢者講習や認知機能検査については下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
義務化された運転技能検査とは?
75歳以上で一定の違反歴がある方は、2022年5月13日に施行された道路交通法改正によって、免許更新の際に「運転技能検査」の受検も義務づけられました。運転技能検査とは、コースで車を運転して課題を行う実車試験です。対象となる一定の違反歴は、「信号無視」「通行区分違反」「速度超過」など11種類が定められています。
運転技能検査では、指示された速度での走行や一時停止、右左折などの課題に沿って運転します。採点は100点満点で、第1種免許は70点以上、第2種免許は80点以上が合格基準です。合格できなかった場合は、免許を更新することができません。
2.高齢者マークはつけたほうがいい?
高齢者マークとは、70歳以上の方が自動車を運転するときに、ドライバーが高齢者であることを周囲に知らせるために車の前や後ろにつけておくマークのことです。高齢者マークには、オレンジと黄色の配色の「もみじマーク」と、オレンジ、黄色、緑、黄緑を使った「四つ葉マーク」の2種類のデザインがあります。どちらを使用してもかまいません。
高齢者マークはつけたほうが安全
高齢者マークをつけることは道路交通法で定められていますが、努力義務のため、つけなくても罰則はありません。ただし、高齢者マークをつけている車に対しては、危険防止などやむを得ない場合を除いて、幅寄せや割り込みをしてはいけないことになっています。
高齢になると咄嗟の反応が遅くなり、判断ミスも生じてしまいがちです。高齢者マークをつけておけば、周囲の車が注意を払いやすく、安全運転をしやすくなるというメリットがあります。必須ではありませんが、70歳以上になったら高齢者マークをつけるようにしましょう。
下記の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
3.安全運転サポートカーなら安心?
「運転に不安を感じるようになったけれど、生活する上で車は欠かせない」という方は、『サポートカー限定免許』という選択肢もあります。高齢ドライバーの交通事故防止対策の1つとして、2022年5月13日から導入された制度です。「サポカー」のみ運転できるというこの制度。詳細を解説しましょう。
サポカーとは?
サポカーとは、自動ブレーキなどの安全運転支援装置が備わった「セーフティ・サポートカー(安全運転サポートカー)」のことです。機能としては次のようなものがあります。
衝突被害軽減ブレーキ
車載レーダーなどによって、前方の車両や歩行者を検知。衝突の危険性を運転者に警報します。それでも衝突しそうな場合は、自動でブレーキが作動します。
ペダル踏み間違い時の加速抑制装置
駐車場などからの発進時や低速走行のときに、ブレーキと間違えてアクセルを踏み込んだ場合、エンジン出力を抑えて急加速を防ぐ装置です。
衝突被害軽減ブレーキが搭載された車は「サポカー」、衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い時の加速抑制装置の両方が搭載された車を「サポカーS」と呼びます。運転者が高齢者の場合は、サポカーSが推奨されています。
4.運転免許の自主返納とは?
心身の衰えを感じ車の運転に自信がなくなったら、安全のために運転免許証の自主返納を考えてみるのも良いでしょう。運転免許証の有効期限内であれば、自主的に返納することができます。年齢制限もないため何歳でも返納可能です。
ただし、運転免許の停止・取消し中や、初心運転者期間制度の再試験に該当する方は自主返納することはできません。
自主返納の手続きの仕方
免許証の自主返納の手続きは、管轄の運転免許試験場や運転免許更新センター、警察署で行います。本人が申請する他、代理人による申請も可能です。ただし、代理人の申請は条件が規定されていることがありますので、事前に管轄の警察署などに確認しましょう。
申請に必要なものは、たとえば東京都の場合は、本人が申請するときは免許証だけでOK。手数料も無料です。紛失などで運転免許証がない場合は、住民票の写し、マイナンバーカード、健康保険証など、住所、氏名、生年月日を確認できるものが必要になります。
代理人による申請の場合は、免許証と委任状、代理人の住所、氏名、生年月日を確認できる書類(住民票の写し、マイナンバーカードなど)を用意します。必要なものは自治体によって異なりますので、警察署のサイトなどで確認しましょう。
運転経歴証明書とは?
自主返納した方は、「運転経歴証明書」を申請することができます。運転経歴証明書とは、運転免許証と同じサイズの証明書で、すべての運転免許の申請取消し(自主返納)をした日、または運転免許の有効期限が切れた日から過去5年間の運転経歴を証明するものです。
運転免許証の代わりに身分証明書として使用することもでき、銀行などでの本人確認書類として使うことができます。有効期限もありませんので、「運転免許証を返納すると身分証明書がなくなってしまう」という方も、運転経歴証明書があれば安心でしょう。ただし、運転経歴証明書があっても車を運転することはできません。
運転経歴証明書の申請方法
申請手続きは運転免許センターや警察署などで行います。自主返納と同時に申請することもできます。自主返納した日から5年以内であれば、後日申請することも可能です。
本人が申請するときに必要なものは以下の通りです(東京都の場合)。
- 運転免許証(紛失などで持っていない場合は、住民票の写し、マイナンバーカード、健康保険証など、住所、氏名、生年月日を確認できるもの)
- 申請用写真 1枚
- 手数料1,100円
必要な書類や申請場所などは自治体によって異なりますので、事前に警察署などに確認しましょう。また、次の場合は運転経歴証明書を申請することができません。
- すべての運転免許の申請取消し(自主返納)後5年以上、または運転免許失効後5年以上経過している方
- 交通違反などによって運転免許の停止・取消しとなった方
- 一部の免許種別のみの返納を希望する方
運転経歴証明書には特典も!
運転経歴証明書を提示すると、高齢者運転免許自主返納サポート協議会に加盟しているホテルや銀行、交通機関、デパートなどで特典を受けることができます。これは、自主返納後も高齢者が充実した生活を送れるように加盟企業や団体が行っている支援活動です。特典の一例をご紹介しましょう。
- 銀行で定期預金の金利優遇
- タクシー乗車料金10%割引
- ホテル内レストランでの10%割引
- デパートから自宅への配送料無料
- 宿泊ツアーの7%割引
- 人間ドック費用の割引 など
※高齢者運転免許自主返納サポート協議会に加盟している企業・サービスに限ります
特典の内容は自治体によって異なるため、詳しくは各自治体に確認しましょう。なお、運転経歴証明書は年齢に関係なく取得できますが、特典の対象は65歳以上などの条件がついていることが多いようです。なお、「高齢運転者支援サイト」には都道府県別に自主返納や各種特典に関するサイトへのリンク集がありますので、ご自分の自治体を確認してみてください。
また、2020年4月1日からマイナンバーカードケースに貼っておける「運転経歴証明書交付シール」も導入されました。これは、運転経歴証明書が交付済みであることを示すシールで、マイナンバーカードと一緒にこのシールを見せれば、運転経歴証明書と同じように特典を受けることができます。
5.高齢者が安全運転を続けるために大切なことは?
警察庁によると、死亡事故を起こした75歳以上の高齢ドライバーに認知機能検査を行ったところ、検査を受けた414人中、約49%にあたる204人が「認知症のおそれ」や「認知機能低下のおそれ」があるという結果になりました(2018年)。
事故原因に目を向けてみても、75歳未満では「安全不確認」「前方不注意」などが主な理由ですが、75歳以上ではハンドル操作やブレーキとアクセルの踏み間違いといった「操作ミス」が事故原因のトップです。ブレーキとアクセルの踏み間違いに関しては、75歳未満は1.3%なのに対して、75歳以上の高齢ドライバーは10.7%と約8倍になっています。
筋肉の衰えや視野障害、認知機能の低下など、事故を引き起こすリスクが高まる高齢者。安全運転を続けるために、日常生活で気をつけたいポイントを押さえておきましょう。
家族で安全運転について話し合う
危険だと感じていても、「免許がないと日常の移動が不便」「運転が好きだからやめたくない」といった理由から、「まだ大丈夫」と自主返納をためらう方もいることでしょう。しかし、自分では気づかないうちに運転能力が落ちている可能性があります。家族などと一緒に車に乗り、自分の運転に危険な部分がないか確認してもらい、問題があれば改善するようにしましょう。
視野の変化に要注意
加齢と共に起こりやすいのが視野障害です。よく見えるかどうかといった「視力」も大切ですが、十分な範囲が見える「視野」も重要です。加齢や病気によって視野が狭まったり、部分的に見えなくなったりしていることがあります。定期的に眼科に行くなどして注意しましょう。
安全確認しながら慎重に運転する
心身の機能が低下すると、歩行者や他の車、標識など周囲への注意力が欠け、咄嗟の反応が難しくなります。交差点での一時停止の厳守や、声を出して確認するなどして慎重な運転を心がけましょう。
高齢者向けの交通安全教室を活用
各自治体や自動車教習所、JAFなどでは高齢者を対象とした実技形式の交通安全教室を開いているところがあります。日頃乗っている車を使ってコースを運転し、自分のクセや身体能力の変化を把握。ベテラン指導員からアドバイスを受けることができます。自治体が開催している教室の中には、無料で参加できるものもあります。
こんな症状が出たら自主返納のタイミング
警察庁では、運転中に注意が必要な症状について紹介しています。次のような症状が見られるようになったら、自主返納を検討するタイミングとも言えるでしょう。
- 右左折のウィンカーを間違って出したり、出し忘れたりする
- カーブをスムーズに曲がれないことがある
- 歩行者、障害物、他の車に注意がいかないことがある
- 車庫入れのとき、塀や壁をこすることが増えた
安全運転を続けるためにも、日頃から自分の心身の状態や運転技能を客観的に把握することが大切です。
6.監修コメント
ガソリン価格の高騰や新車不足の影響もあり、中古エコカーの需要が高まっています。しかし、個人的には、ご高齢の方は車を買い替える際の選択肢に中古のハイブリッド車を入れないほうがよいと思っています。中古車には、誤発進などへの対策が不十分なモデルが多くあります。しかもハイブリッド車はガソリン車と操作方法が異なるうえ、ペダルを踏み間違えると、静かに急発進することがあるからです。
誤発進などのリスクを軽減してくれる安全運転支援装置は、後付けすることもできます。お持ちの車や購入を考えている車の安全性に不安を感じている方は、ディーラーやカーショップなどに相談してみてはいかがでしょうか。