飲酒運転の一つである、「酒気帯び運転」について詳しくご存知でしょうか。報道番組やニュースサイトで目にすることはあっても「どういった罰則があるのか」「飲酒運転や酒酔い運転との違いは何か」といった問いに正確に答えられる人は、そう多くはないのではないでしょうか。
この記事では、酒気帯び運転を軸に、酒酔い運転との違い、飲酒運転における罰則や詳しい処分について解説します。
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飲酒運転の「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」はどう違う?
飲酒運転には「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」があり、道路交通法で意味が定められています。それぞれの違いを見てみましょう。
酒気帯び運転とは?
酒気帯び運転とは、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上、または血液1ミリリットル中に0.3mg以上のアルコール濃度を含んでいる状態で車両を運転する行為のことです。運転手の飲酒量・健康状態に関わらず、法律で禁止(道路交通法第65条第1項)されており、取り締まりの対象になります。違反点数が付加される行政上の責任や、罰金・罰則などの刑事的な処罰が下されます。違反点数や処分は呼気中のアルコール濃度によっても変わります。
酒酔い運転とは?
酒酔い運転とは、呼気中のアルコール濃度とは関係なく、客観的に見てアルコールが原因で正常な運転ができないと判断された状態のことです。
- 白線の上を直進できるか
- 警官の質疑応答で呂律に異常はないか
- 視覚や視点から認知能力が機能しているか
など様々な要因から総合的に判断され、罰則・罰金ともに酒気帯び運転よりも重い処分を受けます。あくまで状況判断のため、呼気中のアルコール濃度が基準値に満たない状態でも検挙される可能性があることを理解しておきましょう。
飲酒運転の行政処分
行政処分とは道路交通法に基づいて公安委員会が免許の停止・取り消しなどを行うことです。酒気帯び運転と酒酔い運転では行政処分に相違点があるため、ここで詳細を解説します。
酒気帯び運転
酒気帯び運転の行政処分は3種類。検出されるアルコール濃度によってそれぞれの処分に問われます。
酒気帯び運転における 呼吸1リットル中アルコール濃度 |
行政処分の内容 | |
---|---|---|
点数 | 免許の処分 | |
0.15mg未満 | なし | なし |
0.15mg以上~0.25mg未満 | 13点 | 免許停止 (停止期間90日) |
0.25mg以上 | 25点 | 免許取り消し (欠格期間2年) |
※前歴やその他の累積点数がない状態での換算
酒気帯び運転による違反点数はあくまで基礎点数です。スピード違反や信号無視といった他の交通違反が重なれば、違反点数は加算されていきます。さらに、呼気1リットル中に含むアルコール濃度が0.25mg以上になると、免許取り消しになるだけでなく、免許を再取得することができない交付停止処分期間である「欠格期間」も設定されます。
酒気帯び運転といえど、飲酒運転です。「飲んだら乗らない」という意識を持つことが大切です。
酒酔い運転
酒酔い運転は行政処分の基礎点数が35点になり、前歴や累積点数の有無にかかわらず一発免許取り消しになります。免許の交付停止期間も最低3年(違反累積なし)と長期間。重い行政処分が酒酔い運転の危険性を示しています。
酒酔い運転の状態 | 行政処分の内容 | |
---|---|---|
アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態 | 点数 | 免許の処分 |
35点 | 免許取り消し (欠格期間3年) |
※前歴やその他の累積点数がない状態での換算
行政処分の前歴が多いと処分が重くなる
日本の自動車免許制度では、運転者が起こした交通違反や自動車事故の内容に応じて「違反点数」が加算されていきます。過去3年以内に累積された点数が一定以上になると、免許停止や免許取消の行政処分が科されます。免許停止・免許取消の期間は、過去3年以内に行政処分を受けた回数や違反点数によって変わってきます。
免許取消になるケース
行政処分を受けた回数と違反点数別の免許取消の期間は下記の表の通りです。たとえば、過去3年以内に免許停止などの行政処分を受けたことがなく、違反点数が15点の人は、1年間の免許取消処分の対象となります。
<一般違反行為の場合>
過去3年以内の運転免許停止等の処分回数 | 欠格期間 ( )は運転免許取消歴保有者 | ||||
---|---|---|---|---|---|
1年 (3年) |
2年 (4年) |
3年 (5年) |
4年 (5年) |
5年 | |
なし | 15点~24点 | 25点~34点 | 35点~39点 | 40点~44点 | 45点以上 |
1回 | 10点~19点 | 20点~29点 | 30点~34点 | 35点~39点 | 40点以上 |
2回 | 5点~14点 | 15点~24点 | 25点~29点 | 30点~34点 | 35点以上 |
3回以上 | 4点~9点 | 10点~19点 | 20点~24点 | 25点~29点 | 30点以上 |
※表組み内の点数は累積した違反点数
※欠格期間とは、免許の試験を受けられず、運転免許の再取得ができない期間のこと(仮免許証は除く)。
※運転免許取消歴保有者とは、過去に違反行為、重大違反唆し(そそのかし)等または道路外致死傷を理由として免許の取消、拒否、事後取消、または6ヶ月を超える期間の自動車等の運転禁止を受けた者を指す。
<特定違反行為の場合>
特定違反行為とは、「運転殺人傷害等」「危険運転致死傷等」「酒酔い運転・麻薬等運転」「妨害運転(著しい交通の危険)」「救護義務違反」のことです。酒酔い運転は非常に危険性が高い行為とみなされ、下記の表のように行政処分が重くなります。
過去3年以内の運転免許停止等の処分回数 | 欠格期間 ( )は運転免許取消歴保有者 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3年 (5年) |
4年 (6年) |
5年 (7年) |
6年 (8年) |
7年 (9年) |
8年 (10年) |
9年 (10年) |
10年 | |
なし | 35点~39点 | 40点~44点 | 45点~49点 | 50点~54点 | 55点~59点 | 60点~64点 | 65点~69点 | 70点以上 |
1回 | - | 35点~39点 | 40点~44点 | 45点~49点 | 50点~54点 | 55点~59点 | 60点~64点 | 65点以上 |
2回 | - | - | 35点~39点 | 40点~44点 | 45点~49点 | 50点~54点 | 55点~59点 | 60点以上 |
3回以上 | - | - | - | 35点~39点 | 40点~44点 | 45点~49点 | 50点~54点 | 55点以上 |
※表組み内の点数は累積した違反点数
※欠格期間とは、免許の試験を受けられず、運転免許の再取得ができない期間のこと(仮免許証は除く)。
※運転免許取消歴保有者とは、過去に違反行為、重大違反唆し(そそのかし)等または道路外致死傷を理由として免許の取消、拒否、事後取消、または6ヶ月を超える期間の自動車等の運転禁止を受けた者を指す。
免許停止になるケース
行政処分を受けた回数と違反点数別の免許停止の期間は下記の通りです。たとえば、過去3年以内に免許停止などの行政処分を1回受けたことがあり、違反点数が8点の人は120日間の免許停止処分の対象となります。
過去3年以内の運転免許停止等の処分回数 | 停止期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
30日 | 60日 | 90日 | 120日 | 150日 | 180日 | |
なし | 6点~8点 | 9点~11点 | 12点~14点 | - | - | - |
1回 | - | 4点~5点 | 6点~7点 | 8点~9点 | - | - |
2回 | - | - | 2点 | 3点 | 4点 | - |
3回 | - | - | - | 2点 | 3点 | - |
4回以上 | - | - | - | - | 2点 | 3点 |
※表組み内の点数は累積した違反点数
- 出典
- 神奈川県警
飲酒運転の罰則
飲酒運転の罰則は、車両を運転した当人だけに求められるわけではありません。運転を依頼した同乗者、お酒や車両を提供した周囲の人も相応の厳しい刑罰の対象者となります。
【酒気帯び運転および酒酔い運転に関する罰則】
酒気帯び運転 | 酒酔い運転 | |
---|---|---|
車両などを運転した人 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
飲酒の事実を知りつつ車両を提供した人 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
飲酒後に運転すると知りつつ酒類を提供した人、または飲酒の事実を知りつつ同乗した人 | 2年以下の懲役または30万円以下の罰金 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
車両などを運転した人
飲酒運転で検挙された車両の運転手には、種別によって上記のように刑罰が取り決められています。また、飲酒運転のせいで人を死傷させてしまえば、刑法により「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」として処罰を受けることにもなりかねません。危険運転致死傷罪なら、相手を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上20年以下の有期懲役となります。
人身事故を起こしたにもかかわらず飲酒運転の発覚を恐れその場から逃げたり、適切な判断ができずに応急処置を怠ったりした場合にも、重い刑罰が命じられることがあります。酒酔い運転による危険運転致死傷罪が法律で下された場合、一番重い「懲役20年」の罰則は殺人と同程度の罪となります。
車両などを提供した人
運転手が飲酒をしたことを知りながら車両を提供した人は、車両等提供罪にあたります。道路交通法(道路交通法第65条第2項)では、「何人も、酒気を帯びている者で、規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。」と規定されています。
提供者の定義としては、車両の名義ではなく、使用を許可する・鍵を渡すなどの任意行為があれば「車両提供罪」が成立します。また、飲酒運転を手助けしたとされる「幇助犯」にあたります。飲酒運転をするつもりのない人に車両を提供した結果、飲酒運転に至った場合では、車両の提供者は飲酒運転の「教唆犯」となります。車両提供罪に該当すれば、飲酒運転をした人と同等の刑罰になることをしっかりと理解しておきましょう。
酒類を提供した人または同乗した人
運転手に対してアルコール類を提供したり飲酒を勧めたりする行為(酒類提供罪)や、飲酒運転と知っていて車両に同乗することを要求・依頼する行為(同乗罪)にも刑罰が科せられます。
運転手に誘われて承諾し同乗した場合には、同乗罪が成立しないこともありますが、飲酒運転の疑いがある運転手の誘いはしっかりと断ることが大切です。
飲酒運転の事故に保険金は支払われる?
飲酒運転によって事故の加害者となってしまった場合、自身のケガや車の破損に対しては、保険金を受け取ることはできません。自動車保険では補償の対象外になるものを「免責事項」としてあらかじめ定めており、酒気帯び運転や酒酔い運転は免責事項となっています。一方、事故の被害者のケガや被害者の自動車などの財産の損害については、被害者救済の観点から保険金の支払い対象となります。
なお、「人身傷害補償保険」「搭乗者傷害保険」「無保険車傷害保険」の3つは、加害者本人は補償されませんが、同乗者は原則として補償されます。
飲酒運転の危険性
普段あまり意識していなくても、車両を運転することは複雑な判断と行動の連続です。飲酒をすると、たとえ血中のアルコール濃度が検挙される基準に満たなくても、脳から伝達する速度に遅れが生じ、車両を運転する能力は徐々に奪われていきます。
以下は、「ビールの350ml缶1本を摂取した場合のアルコールが運転技能に及ぼす影響」をまとめたものです。
- 集中力が低下する
- 反射神経が鈍くなる
- 情報収集能力が阻害される
- 注意力が散漫し多方面に向かない
いずれも運転技能には必要不可欠な能力に影響が出ることがわかります。さらに、運転能力が低下したまま車両を運転すると、以下のような交通違反や事故に結びつく危険性があると、警察庁は警鐘を鳴らしています。
- 不必要に車間距離を詰める「車間距離保持義務の違反」
- スピードを出しすぎてしまう「速度超過違反」
- ブレーキ操作やハンドル操作ミスによる「衝突事故」
たとえ低濃度のアルコールの摂取であっても、お酒の耐性の強弱に関わらず運転技能が低下することも明言されています。飲酒した後の運転は、どのような場合においても危険なのです。
「飲んだら乗るな」が鉄則
飲酒運転における交通事故は、平成12年(2000年)の約26,000件のワースト記録をピークに、令和元年(2019年)には約3,000件と9分の1程度に減少しています。しかし、死亡事故率に関しては飲酒なしの状態と比較すると約7.1倍も多くなっています。「飲酒運転は命に関わる危険性が高い行為」ということがデータからも読み取ることができます。
本人は酔っている自覚がなくても、飲酒運転は非常に危険です。どんな事情があるときでも、「飲んだら乗るな」が鉄則であることを覚えておきましょう。
監修コメント
飲酒運転に関しては「奈良漬を食べたと言えば見逃してもらえる」など、迷信めいた話がまことしやかに語られています。実際にそのような供述をして飲酒を否認する事例が何度もあり、警察庁は「アルコール含有食品に関する調査」を実施。約50gの奈良漬を複数人に食べてもらい、20分後に呼気を測定しました。結果は検知器で呼気アルコール濃度が検知されることはなく、運転シミュレーターを使った走行実験でも影響はみられなかったといいます。
ただしこのことは、前述のような言い訳が通じない根拠に過ぎません。微量のアルコールが運転技能に及ぼす悪影響を完全に否定するものではないので、運転前はアルコール含有食品を控えるようにしましょう。