普通自動車免許を取得するとき、AT(オートマ)限定とMT(マニュアル)のどちらかを選ぶことができます。「どちらを取得すれば良い?」「そもそも2つはどう違うの?」と疑問に思っている方もいることでしょう。
そこで、本記事ではAT限定とMTの違いや、それぞれの取得するメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
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1.AT限定とは?
普通自動車免許のAT限定とは「オートマチック限定」の通称で、オートマチック車(AT車)に限って運転できる限定条件付きの普通自動車免許のことです。一般的に、AT限定免許とも呼ばれます。ATは「Automatic Transmission」の略語で、AT車には自動変速機が搭載されているため、アクセルを踏むと自動でギアチェンジを行なってくれます。シフトチェンジやクラッチペダルの操作をする必要がなく、運転技術に自信がなくても簡単に運転できます。
この免許では普通自動車のAT車、小型特殊自動車、原動機付自転車を運転できます。
MTとの違い
一方、普通自動車のMT免許は、普通自動車のマニュアル車(MT車)、普通自動車のAT車、小型特殊自動車、原動機付自転車を運転できる免許です。MTは「Manual Transmission」の略語で、MT車はシフトレバーやクラッチペダルを操作して自分でギアチェンジを行います。自分で車を操作する面白さがある一方で、慣れるまではエンストを起こしやすいなど操作の難しさもあります。
AT車の普及でAT限定免許を導入
AT限定免許はAT車が広く普及するのに合わせて、1991年11月に導入されました。日本自動車販売協会連合会によると、国産自動車の新車に占めるAT車の比率は、1985年は48.8%だったのが2019年には98.6%まで増えています。
また、自動二輪車(普通・大型)もクラッチ操作のいらないビッグスクーターなどのバイクが増えていることから、2005年6月にAT限定免許が導入されました。
AT限定免許を取得する人が多い?
AT車の普及や性能の向上、MT車を運転する機会が少ない、といった背景によりAT限定免許を取得する人が増加したと考えられています。「運転免許統計(警察庁交通局運転免許課)」によると、2022年中の第1種普通免許合格者117万6433人のうちAT限定免許が85万7153人で、AT限定免許を取得した人が7割以上となっています。
2.AT限定免許のメリットは?
MT車を運転することはできないAT限定免許ですが、AT限定を取得するメリットは何かあるのでしょうか?実は、免許の取得にかかる時間や費用など、下記のようにAT限定とMTは取得までの流れに違いがあります。ここでは2つの違いを見ながらAT限定を取得するメリットを解説します。
AT限定 | MT | ||
---|---|---|---|
運転操作 | 難易度が低い | 難易度が高い | |
教習時間 | 学科教習 | 26時間 | 26時間 |
技能教習 | 31時間 | 34時間 | |
教習費用の目安 | 約29万円〜 | 約30万円〜 | |
取得期間の目安 | 最短15日 | 最短17日 |
※教習費用や取得期間は自動車教習所や受講コースなどによって異なります。
運転操作の難易度が低い
AT車のほとんどの車種にはアクセルとブレーキのペダルしかなく、アクセルを踏めば自動的にギアチェンジされる仕組みです。足でクラッチペダルを踏みながら手動でシフトチェンジをする、といった操作をする必要がありません。このため、シフトチェンジを必要とする運転に自信がない初心者でも運転しやすく、免許も取得しやすいでしょう。
免許の教習費用が安い
自動車教習所に通う場合、免許の取得に必要な学科教習の時間はAT限定、MT共に26時間ですが、技能教習の時間はMTと比べるとAT限定は3時間ほど少なくなっています。このため、教習費用もAT限定のほうがMTよりも1万円〜1万5,000円ほど安く設定されていることが多いです。自動車教習所によって異なりますが、通学した場合の教習費用は、AT限定は約29万円〜、MTは約30万円〜が目安となります。
取得に必要な期間が短い
免許取得の教習は第1段階と第2段階に分かれています。AT限定は第1段階6日、第2段階7日、仮免許試験1日、卒業検定1日で進めば、最短15日での卒業が可能です。MTは第1段階のみAT限定よりも2日長い8日のため、最短で17日必要です。
ただし、取得期間はあくまでも最短のケースで、教習所の混雑具合などによってもっと日数がかかる場合もあります。
AT限定でも車種の選択が豊富
国産の新車販売のうちAT車が9割以上となっており、AT限定でも様々な車種を選ぶことができます。MT車を運転したい方や運転する必要がある方でなければ、AT限定を取得しても車種の選択肢が狭まる不安はないといえるでしょう。
3.AT限定免許でMT車を運転すると違反?
AT限定の普通自動車免許の場合、MT車を運転することはできません。仮にMT車を運転した場合、道路交通法第91条で「免許条件違反」になり、違反点数2点、普通車で7,000円の反則金を科せられることがあります。
4.AT限定免許にデメリットはある?
AT限定免許のデメリットとして言えるのは、運転できるのがAT車のみということです。もしMT免許が必要になったら、運転免許試験場にてAT限定解除の手続きなどをしなければなりません。特にトラックなどの大型車両はMT車であることがほとんどです。
またAT車は操作が簡単な反面、次のようなデメリットもあります。AT車のデメリットを把握した上で、AT限定免許を取得するかどうか判断しましょう。
- AT車はアクセルとブレーキの踏み間違いを起こしやすい
多くの場合、AT車の足元にあるペダルはアクセルとブレーキのみで、踏み間違いによる急発進の危険性があります。クラッチペダルを操作しなくて良いという操作の簡単さがデメリットにもなり得ます。 - AT車は修理費用が高額になることがある
AT車はMT車よりも構造が複雑で故障しやすく、修理にかかる費用もMT車よりも高額になりやすい傾向があります。また車種によってはMT車よりも燃費が悪いことも懸念点であり、このようなAT車の特徴を事前に理解しておくと良いでしょう。
5.MT免許のメリットは?
それでは、普通自動車でMT免許を取得するメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
AT車も運転できる
MTは、MT車はもちろんAT車も運転することができます。MT車は新車の種類が少ないですが、AT車も含めて車の購入を検討可能です。また、マイカーはMT車で社用車はAT車、という場合も対応できます。
MT車は運転操作を楽しめる
MTで運転できるMT車は、道路の状況などに応じてシフトレバーとクラッチペダルを操作するため、自分で車を動かしている、という感覚を味わうことができます。車が好きな方や運転操作を楽しみたい方は、MTを取得すれば満足度が高まりやすいでしょう。
MT車はアクセルとブレーキを踏み間違えにくい
MT車は発進時にクラッチ操作が必要なため、アクセルとブレーキの踏み間違えによる事故を起こしにくいというメリットもあります。
MTが必要な仕事に就くことが可能
クラッチがないセミオートマ車など、最近はAT限定で運転できるトラックも増えてきました。しかし、運送業ではMTが必要になることが多いです。たとえば、バスや大型トラックの運転で必要な大型免許を取得するには、所持しているのが普通自動車免許のAT限定の場合、「限定解除」が必要になります。限定解除については次の章で解説します。運転のプロフェッショナルとして働くならMTを取得したほうが、選択肢が広がるでしょう。
6.AT限定を解除する方法は?
普通自動車免許を取得する際にAT限定を選んでも、後からMT車も運転できるようにすることが可能です。これを「AT限定解除」といいます。限定解除とは、運転免許証にかけられた制限を解除し、制限外の車を運転できるようにすることです。AT限定解除の方法は2種類あります。
自動車教習所に通う
AT限定解除をする場合は、都道府県の公安委員会に指定された指定教習所で技能教習と技能審査を受けます。費用は教習所によって異なりますが、6万円〜10万円が目安となります。入校に必要なものは以下の通りです。
- 普通自動車AT限定免許証
- 写真
- 印鑑(認印)
- 眼鏡、コンタクトレンズ(視力検査に必要な場合)
- その他、教習所によって必要なもの
AT限定解除までの流れは以下の通りです。
- 適性検査を受ける
教習所の入所手続きをしたら、適性検査を受けます。検査項目は視力、色彩識別、聴力、運動能力です。 - 4時限以上の技能教習を受ける
限定解除では学科教習はなく、4時限以上の技能教習のみを受けます。主な教習内容は以下の通りです。
- クラッチ、ギアの操作
- 発進と停止
- コース内での走行
- 踏切手前での停車、発進
- 坂道発進
- S字、クランク走行
- 縦列駐車
- バック駐車
- みきわめ
- 技能審査を受ける
技能教習が終わったら教習所で技能審査を受けます。合格すると技能審査合格証明書が交付されます。技能審査で不合格になった場合は、補習を受ける必要があるため、改めて教習費用と検定料金が必要になります。 - 運転免許試験場で限定解除の手続きをする
技能審査合格証明書交付から3ヶ月以内に住民票管轄の都道府県にある運転免許試験場に行き、限定解除の手続きを行います。提出するものは技能審査合格証明書、普通自動車AT限定免許と手数料1,400円です。 - 免許の交付
提出物に問題がなければ限定解除された普通自動車免許が交付されます。運転免許試験場が空いていれば即日交付も可能です。
一発試験を受ける
教習所に通わずにAT限定解除することもできます。一発試験と呼ばれるもので、直接、運転免許試験場で技能審査を受ける方法です。かかる費用は受験料(試験手数料)1,400円と試験車使用料1,450円の合計2,850円です。必要なものは以下の通りです。
- 普通自動車AT限定免許証
- 眼鏡、コンタクトレンズ(視力検査に必要な場合)
- 限定解除審査申請書(運転試験場にあります)
AT限定解除までの流れは次の通りです。
- 運転免許試験場に行き必要書類を提出
技能審査は住民票管轄の都道府県にある運転免許試験場で受けます。試験場に置いてある限定解除審査申請書に記入し、窓口に提出します。技能審査は予約制の自治体もありますので事前に確認しましょう。 - 技能審査を受ける
技能審査の内容は教習所で受けるものと同様です。一発試験の場合、警察官が審査をし、審査基準は厳しいとされています。審査に落ちた場合は、再度、受験料(試験手数料)と試験車使用料が必要になります。当日、適性検査も行われる場合もあります。 - 免許の交付
技能審査に合格したら限定解除された普通自動車免許が交付されます。
7.監修コメント
国内新車販売の約99%をAT車が占める昨今ですが、軽商用車においては多くのモデルがMT車もラインナップしています。なかでもMT車の需要が大きい軽商用車が軽トラックです。
農業、漁業、林業、建設業など、軽トラックが求められる業種は多岐に渡ります。未舗装路や山間部では、乗り慣れてしまえばAT車よりMT車のほうが扱いやすくもあります。
都心部で移動のためにしか車を使わないのであればAT限定免許で事足りるかもしれませんが、第一次、第二次産業に就くことを視野に入れているのなら、現段階ではMT免許を取得しておいたほうがよいといえるでしょう。