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過去最高値更新が続くNY金、2,600ドル突破

公開

2024/10

ドル建て金26%上昇、2,600ドル台

 国際的な金(ゴールド)の指標価格となっているニューヨーク金先物価格(以下NY金)は、9月13日1トロイオンス(=31.1035グラム)あたり2,600ドル超に上昇しました。この日の取引時間中の高値は2,614.60ドル、終値は2,610.70ドルでいずれも過去最高値の更新となりました。終値ベースでは年始以来34回目の高値更新です。

 NY金は8月12日に初めて終値で2,500ドル台に乗せて以来、1カ月で大台替えの2,600ドル台に到達したことになります。年初来の上昇率は9月13日までで26%と、同じ期間の米主要株式指数S&P500種平均株価の18%を大きく上回っています。同指数は主要な機関投資家が運用指標(ベンチマーク)としており、NY金がこの上昇率を上回っていることで注目度が上がっています。

バブルと言えない過熱感なき上昇

 こう書くと白熱のバブル相場ではと思う方も多いでしょう。年初から上昇が続くNY金ですが、大きな特徴は過熱感がないことです。国際金融や政治を揺るがすような特定の危機的な出来事(イベント)や紛争など、地政学要因に反応する形の急騰型の高値更新ではなく、足元で広く存在する様々な不透明要因に対する対抗手段(ヘッジ)としての金(ゴールド)への資金移動が継続的に水準を押し上げているのです。

 わかりやすく表現するならば、イベント型の上昇ではなくマクロ型(全天候対応型)の上昇が続いているのです。

 より詳細に見ていくと、8月に2,500ドル台に乗せるまでの相場展開の中で、欧米の年金基金やファンドなどの機関投資家は、(金地金の保有で運用される)金ETF(上場投信)を売りに回っていたのです。データでは2024年第2四半期まで9四半期(2年3カ月)連続で売り越し状態で、この間に累計で743トンもの売り越しでした。つまり従来の認識では"買いの主力"の欧米勢不在の相場、つまり全員参加型の上昇相場ではなかったのです。この点においてバブル相場とは言えない状況なのです。

需給を締めている中銀の買い

 ここまでの金市場での大きな買い手は、当レポートでも過去何度か取り上げてきましたが、新興国中央銀行です。中国人民銀行はじめ新興国中央銀行が、外貨準備として保有するドル(=米国債)の比率を下げ、ゴールドの比率を上げてきました。従来では年間600トン程度が過去最大規模でしたが、22年、23年と年間1,000トンを超え、2010年から23年までの累計で7,792トンもの買い越しとなっています。

 中央銀行は投資家ではありませんので、値上がり狙いの買いでなく、保有資産の安定が理由です。08年のリーマンショックを転機にした国際金融危機でスタートし20年のコロナ危機に際して空前の規模(4カ月で3.2兆ドル=約450兆円)に達した米連邦準備理事会(FRB)による通貨供給(量的緩和策)は、端的にはドルの価値希薄化を意味しました。その対抗措置がドルからゴールドへのシフト、いわば刷ることのできない希少なゴールドへの通貨ポートフォリオの見直しです。中央銀行の買いは、金市場に流通する現物の吸収を意味します。

拡大続く草の根的な買い

 一方で、需要のすそ野も広がりました。世界的にインフレが広がったこと、さらにウクライナに加え中東情勢など、国際政治の不安定化から資産防衛という観点での個人による草の根的な買いが広がりました。

 国際的な金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の四半期データでは、一般個人による地金やコインの現物買いは、24年上半期に574トンに上っています。これは前年(579トン)と同程度ですが、価格水準が前年同期比で平均271ドルも高い水準の中での出来事。以前であれば、これほどの値上がり局面では利益確定売りが出るのが一般的でした。それが逆に買い増しに走っているのです。

 ちなみに中央銀行部門は24年上半期に483トンの買い越しになっています。価格水準が急速に上がっているにも関わらず、です。先行き不透明の多さに加え、中央銀行による買いが個人投資家の強気センチメントを支えているとみられます。

異例の先高感で警戒ゾーン入り

 足元の金市場では、過熱感のない持続的な高値更新が成功体験の反復として積み重なり、さらなる先高観を醸成する流れが生まれています。先高観の強さは、たとえば供給面において、価格高騰にもかかわらずリサイクル(ジュエリーなど金製品が換金され再精錬され市場に還流)が伸びないことに表れています。全体でホールド(売らない)状態が定着し、中央銀行による現物吸収に加え、さらに需給が締まった環境を生み出し、異例の先高観がさらに価格を押し上げる構図です。

 しかし、2,600ドル台乗せは、FRBによる利下げ転換を先読みした欧米勢が、いよいよ買いに転じたことを意味し、役者は揃いました。つまり、過熱を心配しなければならない領域に入ることを意味します。(9月18日記)

執筆/生活設計塾クルー 亀井幸一郎(発行日:2024/9/21)

当レポートに記載されている情報は執筆時点のものです。実際に投資や保険契約等を行う場合は情報を確認してご自身の判断で行ってください。当レポートを利用したことによるいかなる損害等についても執筆者及び生活設計塾クルーはその責を負いません。

添付ファイル
過去最高値更新が続くNY金、2,600ドル突破(亀井幸一郎).pdf
執筆
亀井幸一郎 (かめい こういちろう)

(株)生活設計塾クルー取締役、(有)マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役(金融・貴金属アナリスト)。山一證券に勤務後、日本初のFP会社を経て国際的な金の広報調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。2002年現職。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。テレビ東京(「モーニングサテライト」)やラジオNIKKEI(「マーケット・プレス」)などのメディアでの市況解説、日本経済新聞、日経ヴェリタスへの寄稿、マネックス証券サイトにてコラムを担当。

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