プレミアムニュース

相続で取得した空き家、火災保険での備えはここに注意

公開

2024/10

 日本の空き家数は、統計調査が開始された1968年以降一貫して増え続けています。現在の空き家数は過去最多の900万戸で、うち賃貸や売却の予定がなく別荘でもない個人空き家も385万戸とやはり過去最多。相続した実家などが該当します。

 人が住まず、日常的に管理がなされない空き家には、放火で損害を受けたり、老朽化や災害による住宅の損壊で第三者に損害を与えたりして賠償請求されるおそれが高まります。202312月に改正対策特別措置法が施行され、適正管理されない空き家が固定資産税軽減を受けられなくなることからも、早期に利活用を検討する必要がありそうです。

 ともあれ、空き家を維持するならば、火災保険等で備えるのが基本です。損害を受けたあと、建物を再建せず解体しても数百万円程度の費用が掛かります。第三者に損害を与えて法律上の賠償責任が生じれば、相当額の賠償金の支払いを余儀なくされることも考えられます。

 ただ空き家の場合、住宅とは火災保険事情が異なり、注意が必要な点もあります。以下で説明します。

空き家は住宅用の火災保険には入れない

 空き家は「住宅物件」とみなされず、住宅向けの火災保険に加入できません。住宅のみを対象にするネット損保の火災保険や、JA共済、こくみん共済coop、都道府県民共済等が扱う火災共済でも、空き家を対象外としています。前述のとおり、損害を受けるリスクが高まるからで、店舗や事務所などの用途で使用される「一般物件」として、事業用火災保険に加入します。

 ただし、別荘や一時的な転居の間の空き家など、家具が備えられ住宅として機能する建物であれば、住宅用の火災保険に加入できることがあります(取扱いは各社で異なる)。

 相続した実家など、これまで住宅として火災保険に加入していた場合でも、空き家になったら契約先の損保会社に連絡が必要です。火災保険約款には、契約者の「通知義務」が定められており、建物の使用目的が変更されるときは通知しなくてはなりません。怠ると損害を受けても保険金が支払われなかったり、契約が解除されたりするおそれがあります。

 保険料の面はどうでしょうか。空き家の火災保険料は各社で異なり、住宅用の火災保険とあまり変わらないところもあれば、かなり高くなるところもあります。また、高額の免責金額が設定されるなど条件が付く場合もあるようです。

 火災保険収支の悪化から、昨今は火災保険の引き受けを厳格化する損保会社もあります。

 一般物件向けの火災保険を提供している複数の損保会社で見積もりを取ったうえで、加入を検討しましょう。

放置が過ぎれば保険も免責に

 空き家の適正管理は、固定資産税の面だけでなく、適切に火災保険金を受け取るうえでも重要です。火災保険約款には「保険契約者、被保険者またはこれらの者の故意もしくは重大な過失または法令違反」によって生じた損害には、保険金が支払われないと定められています。管理が適切に行われないまま放置された空き家は、契約者等の故意または重大な過失を問われ、保険金が支払われないおそれがあるのです。

 次のような事例もあります。電力会社から漏電の可能性を指摘されながら、漏電火災を防止する措置をとらずに起きた空き家の火災では、契約者の重過失があるとして損保会社の免責を認める判決が出ています。

 施錠しないまま空き家を長期間放置、侵入者により放火された事例でも、契約者の重過失であるとして損保会社の免責が認められています。

災害で空き家が被災したとき、第三者に損害を与えたとき

 災害で空き家が被災しても、公的支援はおおむね対象外であることも知っておきましょう。被災時の支援は、住民の生活再建を支えるものだからです。り災証明書の区分に応じて受けられる最大300万円の現金支援である「被災者生活再建支援制度」の対象にならず、住宅の公費解体支援などの公的支援を受けられないケースもあります。

 より深刻なのが、空き家の損壊などで近隣の住宅や他人の身体等に損害を及ぼし、所有者が法律上の損害賠償責任を負うケースです。空き家所有者が加入する個人賠償責任保険では対応できず、「施設賠償責任保険」に加入して備えますが、最近は空き家の加入を引き受けない損保会社も複数あります。

 なお、空き家は住宅ではないため地震保険を付帯できず、施設賠償責任保険は地震による賠償責任を免責としています。地震による損害には現状は保険で対応できません。

 補償は限られますが、「空き家専用保険」で備える選択肢もあります。

 これは、NPO法人空家・空地管理センターが行う空き家管理サービス(月額2,750円~)に無料で付帯される保険で、空き家が半焼以上の損害を受けたときの解体費用(1事故200万円限度)、近隣への失火見舞費用(1世帯20万円・1事故100万円限度)、空き家に起因する他人への損害賠償(1億円限度)による損害をカバーできます。ただし、解体費用は火災・落雷・破裂・爆発が原因の事故が対象で、暴風雨や地震による損害は対象外となります。

執筆/生活設計塾クルー 清水香(発行日:2024/9/28)

当レポートに記載されている情報は執筆時点のものです。実際に投資や保険契約等を行う場合は情報を確認してご自身の判断で行ってください。当レポートを利用したことによるいかなる損害等についても執筆者及び生活設計塾クルーはその責を負いません。

添付ファイル
相続で取得した空き家、火災保険での備えはここに注意(清水香).pdf
執筆
清水香 (しみず かおり)

(株)生活設計塾クルー取締役、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者・1級FP技能士)。 中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年(株)生活設計塾クルー取締役に就任、2019年FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表に就任。 家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV・ラジオ出演も多数。

プレミアムニュースTOP

プレミアムニュースの関連記事