興味深く追いかけているデータのひとつに、厚生労働省が毎年公表している『6月30日時点で実施されていた先進医療の実績』があります。今年は2年ごとに行われる診療報酬改定の年にあたりますが、改定時に先進医療から保険給付の対象になる技術にも注目しています。
陽子線治療・重粒子線治療も
先進医療は、保険適用にふさわしい有効性・安全性を備えた技術かどうかを評価する、実験段階の医療です。先進医療の代名詞的な「陽子線治療」「重粒子線治療」も、これまでにがんの種類や部位などによって、保険適用が認められてきました。
今回の改定でも6月から、「既存のX線治療等と比較して生存率等の改善が確認された」ということで、陽子線治療・重粒子線治療のうち「ステージI期からIIA期の早期肺がん」、重粒子線治療についてはさらに「局所進行子宮頸部扁平上皮癌(長径6センチメートル以上)」と「悪性黒色腫(婦人科領域の臓器から発生)」が、健康保険給付の対象となっています(いずれも、手術による根治的な治療法が困難であるものに限る)。
2022年に保険適用の範囲が大きく広がったためか、先進医療としての実施件数は、陽子線治療が1293件から824件、重粒子線治療が562件から462件に減少しています(表2)。
本来、推奨度は低いはず
けれども、すべての先進医療の患者数でみれば、22年から急増しています(表1)。これは、不妊治療の「オプション治療」として実施される先進医療が増えている影響です。22年4月、それまで保険適用外だった不妊治療のうち、有効性・安全性が確認された技術は保険適用に、推奨度の低い技術については先進医療に振り分けられました。
推奨度が低いにもかかわらず実施が増えていることに、医療現場でどのような説明がされているかが気になります。というのも、20年4月に先進医療から外された「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」が、外れるまでの間、年々実施件数や実施医療機関数が増え、1件あたりの先進医療費用も高くなっていたからです。なかには平均的な金額より、かなり高額の請求を行っていた医療機関もあったようです。
不妊治療に関わる先進医療の費用は、家計を大きく圧迫するほどの高額とは言えないものの、22年6月時点より概ねアップしています。
「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」を例にとると、22年の費用は32,558円、実施医療機関は150施設だったのが、23年は39,744円、224施設と増加しています。他の治療についても同様で、前年よりも実施医療機関数が増加しています(表2)。
不妊治療に希望を託す患者に対し、オプション治療のメリットデメリットを正確に伝え、冷静な判断をサポートしてくれることを願います。
- 添付ファイル
- 先進医療~不妊治療の「オプション治療」が急増中(浅田里花).pdf