医療保険や介護保険は自分の将来に備えて加入するものですが、生命保険は自分が亡くなった後の家族のために加入する人がほとんどだと思います。その生命保険を自分のために活用するケースもあります。生命保険信託を利用するというもので、その仕組みは下図のとおりです。
一般的には、ひとり親家庭や子どもが障害を持っているなど、「親が亡くなった後のことが心配で保険に入っているけれど、保険金が親の希望通りに使われるかどうかが不安」という人に利用されています。
契約時に、財産を渡したい相手(受益者)や信託終了時に残った財産を受け取る残余財産帰属権利者を決めておきます。受益者の管理能力に不安がある場合などは受益者の親権者等を指図権者に定めておけば、受託者はその指示を受けて支払いを行います。指図権者は財産の一部払出しや支払条件の変更等を行うことができます。
「おひとりさま」のための生命保険
一方、「おひとりさま」の心配事の1つが、自分が亡くなった後の葬儀の執行や遺品整理などに関することではないでしょうか。従来の「家族に残すための保険金」という役割だけでなく、「自分のための保険金活用」という潜在的ニーズは高いと思われます。リビングニーズ特約や特定疾病保障保険など、生前給付型の保険は販売されていますが、保険金支払い後の活用を商品に組み込んだものは見当たりません。
そこで、おひとりさまをターゲットにした生命保険信託商品も販売されています。仕組みとしては下図と同様ですが、受託者が保険金を受け取った後、死後事務委任契約に係る費用を、事前に指定された団体等に支払う機能を組み込んだところに特徴があります。
たとえば、三井住友信託銀行は自行が販売する所定の生命保険加入者を対象に『おひとりさま信託(生命保険タイプ)』を、また、プルデンシャル信託株式会社はプルデンシャル生命とジブラルタ生命の加入者向けに『終活サポート~マイ・エンディング・ケア~』を提供しています。
死後事務委任契約とは、委任者が死亡した後に発生する様々な事務処理を行う人(受任者)を、あらかじめ決めておく契約のことです。委任する内容は、葬儀等に関することや各種支払い、行政手続などが考えられます。
生命保険信託の契約締結時に死後事務委任契約書等のコピーを提出しておき、委託者死亡後、受託者が受け取った死亡保険金から死後事務委任契約に係る費用を受任者に支払い、受任者は契約内容に従って手続きを行うという流れです。
死後事務委任契約の受任先があらかじめ決められている商品と、複数の選択肢から選んで契約する商品がありますが、いずれも信託銀行等とは別団体であり、生命保険信託契約とは別に費用が発生します。どのような事務を依頼するかによって費用は異なるため、十分に話し合って納得したうえで契約を結ぶことが重要です。
契約締結時もしくは契約履行時に33万円(税込)程度の費用が発生し、別途実費や報酬等がかかるというのが一つの目安です。事務委任契約が完了し、費用を支払った後の残余財産は、あらかじめ指定しておいた帰属権利者に支払われます。
手持ちのお金を安心して使える
生命保険を組み込まず、手持ちの資産を信託することも可能ですが、自由に使えるお金が少なくなることに不安を感じる人もいるでしょう。生命保険を信託すれば保険料支出のみで、手持ちの貯蓄を減らさずに済むため、生きている間に自分の財産を自分の望むように使えるメリットがあります。
今回は生命保険信託を取り上げましたが、生命保険信託だけでなく、任意後見制度や民事信託など、自分の希望を叶えるためには、どのような制度が使い勝手がよいか、視野を広げて検討してはどうでしょうか。
- 添付ファイル
- 「おひとりさま」が自分のために活用できる生命保険信託とは(内藤眞弓).pdf