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翻弄されるFRB、どうする!パウエル

公開

2023/04

インフレ鈍化を見込んだFRB

インフレの抑制を目的に、一度に0.75%という通常の3倍の利上げを4回連続で実施するなど歴史的な引き締めを続けてきた米連邦準備理事会(FRB)。政策金利は4.50~4.75%に達しましたが、昨年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、利上げの政策効果が出始めるタイミングということで、利上げ幅を0.75%から0.5%に縮小。さらに年明け2月には0.25%と、いわゆる巡航速度に戻し、利上げサイクルの終了を視野に入れていることを想わせました。

実際に2月1日のFOMC後の記者会見でパウエル議長は、「(物価の伸びが鈍化する)ディスインフレのプロセスが始まった」と明言したのです。市場は利上げ打ち止めを想定した動きとなりました。

想定外だった堅調指標の連続

ところが、その2日後の2月3日に発表された1月の米雇用統計はビッグ・サプライズとなりました。前月比の(非農業部門)雇用者増加数が、予想の18万5000人に対し51万7000人と、倍以上の規模に(1カ月後50万4000人に下方修正)。さらに3.6%への悪化を読んでいた失業率も3.4%と、1969年5月以来の低水準となったことが判明。これほどの数字は誰もが思いもしないもので、FRB関係者も同様でした。

さらに14日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)が、市場では前年比で12月の6.5%から6.2%への低下予想だったのに対し、6.4%と思ったほど落ちていないことが判明。その後も2月24日に発表された、FRBが物価指標として重視している(変動の大きい食品とエネルギーを除いた)個人消費支出価格指数のコア指数が、12月の4.6%から4.7%にむしろ加速していることが判明したのです。

FRBの政策判断の材料になるとされている指標がことごとく上振れという結果に市場は驚きました。

FRB理事から政策効果疑問の声

当然、FRB内部からも声があがります。2月15日小売売上高、16日生産者物価指数(PPI)のいずれも予想比の上振れが判明していた17日、ボウマンFRB理事が、「これまでの措置が定着していないか、効果を発揮していないことを示すデータが続いている」と発言したのです。7名定員のFRB本部の理事の発言は、それなりに重みがあります。

さらに3月2日にはウォラー理事がこの日の講演で、FRBのインフレ対応にどれだけ効果があったのか疑問が出ていると述べ、インフレとの闘いは1、2カ月前に多くの人が予想していたよりも、終わりが遅く、長いものになるだろうと、利上げ期間の延長と金利水準の上昇を示唆したのです。

物価認識を変えたパウエル議長

この発言には伏線がありました。3月7、8日の2日間の日程でパウエル議長による、議会証言が予定されていたのです。2名の理事が、歴史的な引き締め策の効果に疑問を呈したこともあり、初日、上院銀行委員会でのパウエル議長の証言に市場の注目が集まりました。3月のFOMCの政策方針を嗅ぎ取ろうというわけです。結論から言って、議長の発言内容は、予想以上にタカ派的なものでした。

パウエル議長は冒頭で、「データが引き締めペースの加速を正当化すれば、利上げのペースを加速する用意がある」と発言。1月の雇用統計や消費関連の指数の強さには、一部は暖冬や他の季節的要因の影響による可能性があるとしつつも、「最終的な金利水準が従来の予想よりも高くなる可能性が高いことを示唆している」としました。これにより市場では、3月のFOMCを含め、利上げ幅拡大観測(0.25%⇒0.50%)が一気に台頭しました。

利上げサイクルの最終到達点金利の水準は、利上げ回数の増加で当然上がりますが、いったん縮小した利上げ幅の再拡大まで読む向きはほとんどいなかったと思います。約1カ月前の「ディスインフレのプロセスが始まった」発言をそのまま受け取った市場にとって、いわば「ちゃぶ台返し」でした。

利上げ幅の再拡大はFRBがインフレ見通しを変えたことを意味し、一般の期待インフレ率を高める可能性もあり、逆効果ではないかと思いました。さらに、そもそもインフレ初期の段階から「一時的(transitory)」と何度も繰り返し、誤りを犯したパウエル議長が、再び見通しを違えたことをも意味します。

ただし、議会公聴会でのFRB議長の発言だけに、市場は0.5%の利上げとともに、当初想定していたその次の5月の利上げに加え、6月のFOMCでの利上げ継続も織り込みにかかりました。

思わぬ金融システム不安の浮上

しかし、その週末3月10日から12日にかけて発生したのが、米中堅クラスのシリコンバレーバンクを含む2つの銀行の破綻でした。

FRBによる歴史的な引き締め策に意外にも耐性を示す経済。一方、耐え切れずほころび始めた金融システム。風向きは一気に変わることになりました。3月21、22日のFOMCでは利上げ見送りとの見方が台頭。一部には利下げとの見方も生まれているのです。翻弄されるFRB。どうする!パウエル。(3月17日記)

添付ファイル
翻弄されるFRB、どうする!パウエル(亀井幸一郎).pdf
執筆
亀井幸一郎 (かめい こういちろう)

(株)生活設計塾クルー取締役、(有)マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役(金融・貴金属アナリスト)。山一證券に勤務後、日本初のFP会社を経て国際的な金の広報調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。2002年現職。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。テレビ東京(「モーニングサテライト」)やラジオNIKKEI(「マーケット・プレス」)などのメディアでの市況解説、日本経済新聞、日経ヴェリタスへの寄稿、マネックス証券サイトにてコラムを担当。

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