プレミアムニュース

企業型DC加入者、iDeCo加入をどう考えればよいか

公開

2023/04

老後のための確定拠出年金には、企業単位で加入し、従業員等のために企業が掛金を拠出する「企業型」と、個人が自分の意思で加入し、本人が掛金を拠出する「個人型」の2つがあります。

確定拠出年金のことを英語で「Defined Contribution Plan」というので、頭文字を取って「DC」ともいいます。また、個人型の愛称を「iDeCo(イデコ)」といいます。

企業型DCの加入者は2022年3月末現在で約782万人、iDeCoの加入者は2023年1月末現在約283万人で、企業型DC加入者のほうが多くなっています。

企業型DCとiDeCoの並行加入

従来、企業型DC加入者でiDeCoにも並行加入できたのは、iDeCoへの加入を認める年金規約の定めがあり、iDeCoの拠出限度額の分だけ事業主掛金(企業が拠出してくれる掛金)の上限を引き下げた企業の従業員に限られていました。事業主掛金の上限引き下げが実務的に難しかったため、ほとんどの企業はiDeCoとの並行加入を認めていませんでした(やや古いデータですが、iDeCoとの並行加入を認めていた企業は、2019年3月末現在で約3.6%に過ぎませんでした)。

それが、2022年10月以降は、企業型DC加入者について、年金規約の定めや事業主掛金の上限引き下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残りの範囲内で、iDeCoに加入できるようになりました。この場合のiDeCoの拠出限度額は、確定給付型企業年金を実施していない企業(企業年金として確定拠出年金のみを実施している企業)の場合は月2万円、確定給付型企業年金を実施している企業(企業年金として確定拠出年金と確定給付型を併用している企業)の場合は月1万2000円になります。

例えば、企業年金として確定拠出年金のみを実施している企業の場合、全体の拠出限度額は月5万5000円です。事業主掛金が月1万円だとすると、5万5000円から1万円を控除すれば4万5000円になりますが、iDeCoの拠出限度額は月2万円なので2万円まで拠出できます。

企業年金として確定拠出年金と確定給付型を併用している企業の場合、全体の拠出限度額は月2万7500円です。事業主掛金が月1万円だとすると、2万7500円から1万円を控除すれば1万7500円になりますが、iDeCoの拠出限度額は月1万2000円なので1万2000円まで拠出できます。

限度額はありますが、事業主掛金がさほど多くない場合、iDeCoにも並行加入することで、老後資金準備を充実させることができます。

ただし、iDeCoの掛金は月5000円以上1000円単位で決めなければならないので、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残りの金額が5000円を下回っている場合は、iDeCoには加入できません。

iDeCoの掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となり、その年の所得から控除できます。そのため課税所得が掛金の分だけ少なくなり、所得税・住民税の負担が軽減されます。運用益も非課税となるメリットがあるので、現在、企業型DCに加入していて、iDeCoに並行加入できる人は、加入することをお勧めします。

ただし、iDeCoの受取りは原則として60歳以降となり、60歳前のライフイベント等のために積立金を引き出すことはできません。経済的に苦しくなったとしても受給は認められず、積立金を担保とした借り入れもできません。このため、60歳以降まで運用可能な無理のない拠出額にする必要があります(なお、iDeCoの掛金額は年1回変更でき、掛金拠出を停止することも可能です)。

マッチング拠出か、iDeCo加入か

従来、企業型DCでマッチング拠出(事業主掛金に上乗せして加入者が掛金を拠出すること)が可能な場合は、iDeCoとの並行加入が認められず、加入者が掛金を増やしたい場合はマッチング拠出しか選択肢はありませんでした(マッチング拠出を利用しないのは自由です)。それが2022年10月から、マッチング拠出かiDeCo加入かを、個々に選択できるようになりました。

マッチング拠出の掛金も全額が所得控除の対象となり、掛金を拠出するだけで税負担が軽減されるというメリットがありますが(運用益も非課税です)、掛金には、①事業主掛金以下であること、②事業主掛金との合計額が全体の拠出限度額以下であること、という制限があります。このため、事業主掛金が少額の場合、マッチング拠出できる金額も少額になってしまいます。例えば、事業主掛金が月5000円の場合、5000円までしか拠出できません。

こうした場合、iDeCoに加入することによって、企業年金として確定拠出年金のみを実施している企業の場合は月2万円、企業年金として確定拠出年金と確定給付型を併用している企業の場合は月1万2000円を上限として、掛金を拠出できます。

ただし、マッチング拠出を利用する場合は、口座管理手数料は企業が負担してくれますが、iDeCoの手数料は本人負担となります。このため、マッチング拠出とiDeCo加入でほぼ同じ金額を拠出できる場合は、運用商品の品揃え等を無視すれば、手数料の本人負担がないマッチング拠出のほうが有利になります。iDeCoに加入したほうがより多い金額を拠出でき、手数料負担より税負担の軽減効果が大きい場合は、iDeCo加入の選択をお勧めします。

添付ファイル
企業型DC加入者、iDeCo加入をどう考えればよいか(目黒政明).pdf
執筆
目黒政明 (めぐろ まさあき)

(株)生活設計塾クルー代表取締役、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者・1級FP技能士)。1959年生まれ。慶応大学法学部卒業後、大和証券を経て、1987年から独立系FPとして活動中。証券会社で仕事を始めたこともあり、資産運用アドバイスを専門としている。個人の運用相談のほか、新聞・雑誌・ネット・セミナー等で運用に関する情報発信を長年にわたって続けてきている。

プレミアムニュースTOP

プレミアムニュースの関連記事