思いがけず兄弟間の遺産分割協議に手間取ったAさんは、紆余曲折を経て、ようやく実家の戸建てを相続することが決まりました。ところが、ほどなく実家の面する「私道」が協議から漏れていたことが発覚。改めて、私道のための分割協議をする羽目に陥ってしまいました。
私道に気付いたのは、Aさんから実家の売却相談を受けた不動産会社です。Aさん兄弟はそこではじめて、「実家が接道しているのは私道であること」、「私道に持分があること」を知ったと言います。このように分割協議で私道が漏れることは少なくありません。なぜでしょうか。
私道を所有する形態の例
まず、私道の所有形態のうち、3つの例をご紹介します。下図の①は、私道に面する土地の所有者が、私道全体を持分で共有する形態です。土地Aの所有者が私道(薄いグレー部分)の1/4を持つといった具合です。持ち分は均等のこともあれば、差がついていることもあります。
②は私道を分割して、相互に単独所有する形態です。例えば土地Bの所有者が、土地Bとは離れたところに、私道の一部分(濃いグレー部分)を持つなどで、これで私道の私的利用などを防止するとか。比較的古い私道に見られます。③は私道に面する土地所有者に、私道の持ち分がない形態です。一帯の土地の元所有者である地主などが、私道を単独で所有するケースが見られます。
所有形態と通行・掘削の承諾
私道に持分があれば、整備費用の負担が発生しますが、私道を使う権利もあります。ただし、①のように、私道全体を共有していても、水道管やガス管のために掘削などを行う際は、他の共有者の承諾などを求められることがあります。②のように、私道の一部を相互に持ち合う場合は、掘削に加えて通行についても、他の私道所有者の承諾などが必要になることがあります。いずれの場合も、「お互いさま」の気持ちが働くと期待できますが、中には過去の使用方法に不満を持つなどで、スムーズにいかないケースも見られます。
③のように、私道に持分がないと、私道の所有者に、通行・掘削の承諾をお願いする立場になります。お互いさまの気持ちも働かないため、私道の利用に制限を受けたり、金銭的な負担を求められたりといったことも起きやすいかもしれません。その結果、土地の価値が下がってしまう可能性も。通常、私道持分があるほうがトラブルは少ないと思われます。
名寄帳で私道の漏れを防ぐ
ところで、Aさんの場合、実家の相続で私道が漏れたのはなぜでしょうか。実は、私道は一定の条件を満たすことで、固定資産税・都市計画税が非課税になります。Aさんの実家もそうでした。そのため区から届く課税明細書には私道の記載がなく、「うっかり」が起きたと言います。これは特に珍しいことでもなく、相続に関わる専門家でも、時には失敗する例があります。
さてAさんですが、改めて私道の分割協議を行うにあたり、弟から「はんこ代」として追加負担を求められたと言います。弟によれば、私道持分があれば土地の価値が上がるから。「私道を忘れなかったら」とAさんは悔やみます。このようなことを防ぐためには、被相続人が同一市区町村に所有していた不動産を一覧できる名寄帳を取り寄せるのが有効です。
- 添付ファイル
- 実家の相続~遺産分割協議は「私道」に注意(久谷真理子).pdf